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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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新名小話

風邪シリーズっていうか声が出ないシリーズ。笑
たまに自分のMOEポイントを見失うんだ…


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 見慣れた後ろ姿を見つけた新名は歩いていた足を浮き足立たせ、小走りで少しだけ遠い背中を追いかけた。追いかけざま、背中の主である彼女の名前を呼んで引き止めれば、相手はあっさりと歩みを止めて振り返った。新名は彼女が振り返るタイミングで、いつも通り「ちょりっす」と挨拶をしようとして、上げた手が中途半端な位置で止まった。というのも、彼女の顔半分を覆うマスクが目に止まったからだ。

「なに、風邪?」

 新名の問いに、こくんと美奈子は頷く。その動きに訝しげな視線を向ければ、新名の言いたいことが伝わったらしい。彼女は喉を指差したあと、両手で「×」を作ってみせた。たったそれだけのジェスチャーではあったが、十分に意味は通じた。つまり、声が出ないのだ。

「てか、声が出ない風邪とか大丈夫なのよ?」

 こくこく。二回、美奈子は頷く。

「部活は? てか、当然休みだと思うけど、そんな状態なら早退すれば?」

 言う新名の言葉に、しかし今度は頷かずにうーんと考え込むように顔を顰めてしまう。その様子を見て、新名ははた、とあることに気がついた。というか、気がつかざるをえない。
 新名は半眼に目を細めると、じっとマスクに覆われた相手の顔を見据えた。訊く。

「まさか、その状態で部活に出ようなんて考えてないよな?」

 いう新名の問いに、美奈子は頷かなかった。だが、新名を見ていた目がつい、と明後日の方向に逸らされたのが、すべての答えだ。
 そんな彼女の態度に、新名は瞬時に顔を顰めた。がし、と相手の肩を掴む。

「あのなあ、数日アンタがいなくたってどうにかなるんだから、今日はさっさと家に帰って寝る! わかった!?」

 新名の剣幕が予想外だったのか、美奈子は言われるままにこくこくこくこくと必要以上に首を揺らして頷いた。あまりにも多く首を動かすものだから、頷くというよりは首ふり人形のように見えなくもないが、今はそんなことにつっこんでいる場合でもない。とにかくこの天然マネージャーはこちらからつっこまないことには、自分のことをおざなりにしてしまう傾向がある。そしてもう一人の天然である先輩こと主将でもある不二山嵐も、こんな彼女をみたら怒り出すのではないかと想像して、ぞっとした。きっと怒鳴り散らすことはないだろうけど、静かに淡々と説教する様もそれはそれで彼女が気の毒だ。ひょっとしたらこんな想像すべてが杞憂に終わるのかもしれないが、やっぱり病人であることには変わりはない。新稲は深く息を吐き出すと、彼女の肩を掴んでいた手を離した。わりい、と先ほどの勢いで言った言葉に対して短く謝罪すると、今度は彼女の手が新名の手を捕まえた。右手を両手で捕まえられ、何事かと見返す。と、美奈子は捕まえた手をひっくり返すと手のひらの上に
指を滑られた。

『ご、め、ん、ね』

 と一文字ずつ書かれた文字を繋ぎ合わせてできた言葉に、新名は美奈子を見た。そして、彼女は再び手のひらの上に指を滑らせると、今度は違う言葉を綴った。

『あ、り、が、と』

 今度は感謝の言葉を伝えられ、新名は無性に居た堪れなくなった。
 たったの4文字。最初の「ごめんね」も合わせても合計8文字でしかないというのに、妙に気恥ずかしくなるのはなぜだろう。
 すると、なんともタイミングよく休み時間終了のチャイムが鳴り響いた。こうなると、あっという間に廊下と教室が騒がしくなる。
 当然新名たちのいる廊下も例外ではなく、皆自分の教室に戻ろうと各々立ち去り始めた。
 美奈子も教室に戻ろうと掴んでいた新名の手を開放した。途端、離れていく彼女の体温が惜しくて、思わずその手を追いかけて掴んでしまった。
 きょとんとした黒目がちの目と目が合って、はっと新名は我に返る。しかしやっぱり離してしまうのが惜しくて、ぎゅっと一度強く握る。二度、美奈子が瞬きをする分だけ手を握り、新名は「無理すんなよ」とだけ言い残してようやく手を開放した。
 美奈子は彼の言葉を素直に受け止めたのか、手を振って踵を返す。そうして二年生の教室へと帰っていく背中を見送って、さっきまで繋いでいた右手に視線を落とした。我ながらなんとも恥ずかしいことをしたのではないかと思うけれど、美奈子の方はこれっぽっちも意識していない様子がまた、新名を安心させて落ち込ませた。

(…頼むぜ)

 と、内心で独りごちた言葉の先は美奈子に対してか、自分に対してか、はたまたレンアイの神様か。
 それは新名自身にもわからないまま、本鈴によって思考は中断された。

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