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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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親友新名小話

アンケリクで、ちょっと黒い親友新名。
そして今、アンケ内容がED後だったと思い出しまし、た…ふおおおすいませ…!

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「何してんの、センパイ?」
 ひょいと顔を覗かせた屋上の、給水タンクの影に彼女はいた。外から見たら完全に死角になっているそこは、絶好のサボリポイントだ。そこに膝を抱えて座り込んでいた彼女は驚いたような表情で、顔を上げた。ほんのちょっとだけ目尻が涙で滲んでいる。
「ニーナこそ、こんなところで何してるの?」
「アンタのおサボリにご一緒しようかと」
「…だめだよ、ちゃんと授業に出ないと」
「もうチャイム鳴っちゃったし、遅いだろ。それに、最初からサボろうとしてた人が言っても説得力ねえぜ」
 言って、よいしょと新名は彼女の隣に腰を下ろす。二人が座るにはさすがに狭く、自然と肩と腕がくっついてしまう。たったそれだけのことに動揺しているのは新名だけらしく、美奈子の方は一度困った様子で新名を見たあと、再び腕の中へと顔を俯かせてしまった。
「なに、なんかあったの?」
「……ううん」
「はーい、バレバレのうそ吐かない。吐き出せる愚痴は吐き出しましょー」
 ふざけた調子で新名が言えば、ほんの少しだけ笑う気配が伝わった。新名はさらに身体を屈ませて、美奈子へと顔を近づける。美奈子に好きな人がいると知って、親友宣言をしたのは自分からだ。例え恋愛での一番にはなれずとも、異性の友人として一番近くにいたい。咄嗟にそう考えての結論だったが、今にして思えばなんて浅はかでバカなことを言ったんだと後悔しきりだ。
 だって、全然彼女への恋心が消えてくれないのだ。むしろ消えないどころか日に日に強くなっていってさえ、いる。
 だが、当然新名の心境など知るはずもない美奈子は、あっさりと弱みをさらけ出す。どうしたらいいかなと、困ったような泣き笑いの笑顔は素直に心臓に痛くて、でもその反面で優越感に浸れてしまう。親友だと自ら引いた線をなかったことにしようかと伺っている自分に気が付いてはひどい罪悪感に襲われて、また、苛つきもする。
 美奈子の意中の相手は、美奈子のこんな表情を知らない。こんな風に思っていることを知らない。何も知らないのに、けれど美奈子には思われているのが羨ましくて仕方ないのだ。どうしてと誰にともなく、問う。こんなにも彼女の話を聞いて、彼女の気持ちを知って、彼女のことをたくさんたくさん知っていけるのにちっとも距離は縮まらない。それは「親友」というポジションに着いたから当然といえば当然なのだが、たまに、どうしてもやりきれない衝動に駆られそうになる。
 そんなヤツやめとけよ。
 オレにしとけよ。
 そんなドラマや何かで使い古されているような台詞が、口をついて出そうになる。
 それをいつも寸でで押しとどめて、「親友の新名」を装っていた。
「…ありがと」
 ぽつん、と。美奈子が呟いた。腕の中に顔を隠しているので聞き取りずらくはあったが、誰もいない二人きりの状態では十分聞き取ることができた。
 新名は返事を返さず、軽く彼女の頭に手を置く。ぽんぽんと二回手を跳ねさせて引っ込めると、美奈子の指先が新名のベストの裾を掴んだ。本当にちょっとだけ掴んでくる仕草が、逆にいじらしく見える。顔は以前俯かせたままで、けれど片腕を外したことにより横顔が伺える。泣くのを堪えるように下唇を噛んでいるのが見えて、新名堪らなくなった。これは、抱きしめてもいいのだろうか。いくらなんでも弱みを見せ過ぎじゃないかと、思う。いくら学校とはいえこんな見つかりにくい場所で男女で二人きりなんて、格好のシチュエーションじゃないか。
 ごくりと、新名の喉が鳴る。先程頭を撫でた手をもう一度美奈子へと伸ばす。今度は頭ではなく肩へと回し、抱き寄せた。美奈子は抵抗なく新名の腕の中へと納まってしまい、どくん、と新名の心臓が大きく動く。けれど同時に、激しい怒りもわき起こってきた。この人は、オレを舐めてるのか。オレが年下だから何もしてこないと思っているのか。「親友」だから、人畜無害だと安心しているのか。
 そこまで考えて、新名は俯く美奈子の顎に手を掛けた。上を向かせて顔を見れば驚いて目を見開き、黒目がちの目に新名を映す。その目の中の自分は、想像よりもずっと冷静な顔つきでいた。しかし反対に美奈子はどんどん不安になっていくかのように、眉を寄せる。さっきまで噛みしめて赤くなった唇に自分の唇を押し当て、口内へと舌を差し込んで蹂躙したい。そうしてやめてと突っぱねられても、お願いと哀願さてもすべて無視しして彼女を奪ってしまいたい。かつてないほど凶悪な感情に、新名の意識は黒く黒く染まりそうになる。が、抱きしめる肩から彼女がかすかに震えているのがわかり、はっと目が覚めるように我に返った。そうなるとあっという間だ。さっきまでの勢いはなんだったのかというほど気持ちは冷静に冷めていき、掴んでいた手を放す。両手を「降参」のようにして挙げて、じりじりと後退して距離を取る。
「…悪ぃ」
「ううん、平気。ちょっとびっくりしたけど」
「いや、でもやっぱりゴメン」
「もういいってば」
 続けて謝る新名に、美奈子も首を振る。
「わたしも、いつも相談とか乗ってもらいっぱなしでごめん。ニーナが優しいからってつい甘えちゃうの、良くないよね」
「……別に」
「嫌になったら言ってね?」
「なるわけねえし」
 いった言葉の裏側の本音は「なれるわけねえし」だが、当然伝えられるわけがない。
 しかし新名は暫く思案するように視線を泳がせ、再び美奈子を見た。
「じゃあさ、手」
「手?」
「この時間が終わるまで、手、握っててもいい?」
 言って、新名は自分の手を差し出した。美奈子は新名と差し出された手を交互に見て、そっと自分の手を重ねてきた。
 一つ年上でも包み込めてしまうほど華奢な手を新名はそっと握りしめ、あんがと、と呟いた。

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