19歳琥一×高1バンビ妄想。
冒頭だけの小話という小ネタ。
いつか妄想が固まったらくっつくまで書きたいなーと言うだけはタダ
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せめてあと一年早く生まれていたら、なんて。
考えても仕方ないことを、最近よく考えるようになった。
いってきますと家の中に告げれば、いってらっしゃいと母親の声が返ってくる。その返事を聞いて、美奈子は玄関のドアを開けて外へ出た。まだ少し肌寒い四月の半ば。桜は八部咲き。はばたき学園へ入学して一週間が過ぎたけれど、まだまだ制服は着慣れない。
「あ」
つと、美奈子は玄関から出た数歩先に見慣れた背中を発見した。制服と同じくらい真新しい靴で走り出し、その背中を追いかける。
「コウちゃん!」
追いつく数歩前で、美奈子は背中へと呼びかける。するとその背中は歩くのを止め、振り返った。
「おはよ」
「おう、オマエは学校か」
「うん。コウちゃんは仕事?」
「まあな」
普段着ではなく、作業着姿の彼――幼なじみの桜井琥一は大きなあくびをひとつした。まだ眠たげな瞼を数回動かして、首の裏を掻く。
「眠そうだね。お仕事、大変?」
「最初は大体こんなもんだろ。オマエこそ勉強できてんのか?」
「できてるもん」
「どうだか。せいぜい留年しないこったな」
「しません!」
相手の言葉にムキになって言い返すと、くつくつと喉で笑いながらも美奈子の頭を少し乱暴に撫でた。それをされたあとは手櫛で髪を整え直さなければいけないが、彼の中で好きな仕草なため文句は言わない。そうしてそれ以上の反撃の言葉を続けられず、美奈子はいつものように前髪を整えて、俯く。
(一年)
内心でのみ、呟く。
あと一年早く生まれていたら、今より一年間分琥一と一緒に過ごす学校生活が増えていた。しかしいくらそんなことを考えてみたところで、三歳の差が埋まるはずもない。ずっとそうやって過ごしてきたのだ。美奈子が小学校四年生のときに琥一は中学に入学し、自分が中学に入学すれば相手は高校一年生。そうして今、高校入学したと同時に彼は社会人になってしまった。大学生になったらひょっとして、という美奈子の淡い希望はあっさりと崩れてしまい、ずっと追いつけない追いかけっこをしてる気分は日増しに大きくなっていく。
「じゃあ俺はこっちだから、気をつけていけよ」
「…うん。じゃあね」
そんなことを考えながら歩いている間に、琥一との分かれ道まできてしまったらしい。何の未練もなく(当然だが)仕事に向かう琥一の背中を、暫く見送る。
追いつけない追いかけっこ。
我ながら的確過ぎる考えに、いっそ笑ってしまいそうになる。
琥一が幼なじみのお兄ちゃんではなく、異性として好きだと自覚したのはいつだったろうか。
恒例となっているバレンタインのチョコレートを渡す度、彼の反応にいつもびくびくしている。
もういらないと、いつか言われる日がくると考えると――こわい。
けれど幼なじみで妹分の立場から一歩を踏み出す勇気はなくて、ただただ隣に居られる居心地の良さに甘えている。その甘えと焦れったさの狭間に揺れて、時折無性に泣きたくなる。
けれどそれは、単なる自分勝手なエゴなのも知っている。
だから泣く手前できつくきつく唇を噛んで、堪える。
「……学校、行こ」
ぽつり、独りごちて。
美奈子は琥一と反対の道へと歩き出した。
[11回]
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