えろっすな雰囲気なので畳みます。
苦手な方は注意!
いつものくだらない言い合いをしているはずだった。
それがどうしてこんなことになってしまったのだろうと、切れ切れに上がる呼吸に目眩を覚えながら、イギリスは朦朧とした意識の中で考える。
しかしその思考を中断させるように、ぐじゅり、と濁った水音が予想以上に響いたのを聞いて、耳を塞ぎたくなる。だがそれをするための両手は目の前にいる男によって制されていた。背中と両腕が壁に押さえつけられ、気を抜けば上げたくもない声を漏らしそうになる唇をきつく噛み締める。
すると、目の前の男――アメリカは嘲笑するように目を細め、噛みしめられた唇へ滑らせるように人差し指で触れた。口を開く。
「そんなにしたら、切れちゃうぞ」
「う、るせ…」
「気持ちいいんだろう? 素直になればいいのに」
「ふざけ、…ッうァ!」
グッと捕まれていた中心を強く握られ、イギリスは耐えきれずに呻くような声を上げる。じん、と握られているそこから広がる痺れにも似た快楽に飲み込まれそうになるが、もう一度唇を引き結ぶことでなんとか踏みとどまった。が、ふいに、こちらを覗き込むようにアメリカが顔を近づけてきた。
何だ、と訊くすら与えられず、近づいてきたアメリカの顔はあっという間にイギリスと距離を詰め、更には唇を重ねてきた。何度か押し当てるような口づけを施され、ひくっとのど元が引きつる。逸らそうとする顔は、顎を捕らえられては逃れられるはずはなく。その間にもアメリカは舌先を伸ばしてイギリスの唇をなぞる。その感覚にブルブルと身体がわけもなく震えて、ぎゅ、ときつく目を閉じた。ダメだ、と頭の中で警告のサイレンが鳴る。
それが何に対しての危険信号なのか、イギリス自身もよくわかっていない。けれどひたすらに「ダメだ」と言い聞かせるように胸中で繰り返す。
「……また、つまらないことを考えてる」
ふ、と。
離れた唇はすぐにでも重ねられる距離のまま、アメリカが言った。その呟きに思わず閉じていた眼を開いてしまえば、至近距離で相手の蒼い目の視線がぶつかる。その目に宿る感情があの日の――この男が自分の元を去っていった雨の日のそれと重なって、ぎくりとイギリスは身を固めた。
「オレはずっと、君に守られて生きていくべき弟?」
「アメ、リカ…」
「いつまで兄弟ごっこを続けるつもりだい?」
「…ごっこじゃない。オレは、おまえを本当の弟だと」
「嘘だ」
断定的に、アメリカは言い放つ。
「それならオレが独立したあの日、どうして君は泣いた?」
「あれは…」
「イギリス」
低い、声。
両腕を押さえる強い力。
見上げなければいけない位置にまで成長した相手の目を、見て。ずきりと、心臓が鈍く痛むのを感じる。
アメリカを初めて拾ってから、決別のあの日まで。日に日に成長していく彼がとても誇らしくて、愛しかったのは事実。けれどその反面、どこかで寂しいと思っていたのは親が子供に抱く感情に近いものだと、イギリスは思っていた。
(オレ、は)
ぎり、と奥歯を噛みしめる。目頭に熱が集まって、泣いてしまいそうな自分が情けない。泣いている場合なんかじゃあないのに、と。ふいに下げた視線から自分の醜態を思い出して、今度は羞恥の熱が灯った。反射的にイギリスはアメリカの手の動きが止まっているその隙に、思い切り鳩尾に向かって蹴りを叩き込んだ。油断していたらしいアメリカはまともにその蹴りを食らってしまい、よろけた拍子に拘束していた力が緩んだのを見逃さない。イギリスは素早くズボンを引き上げて、がちゃがちゃとベルトを鳴らしながら立ち去ろうとして、
「イギリス! 待て!」
「待たねーよばか! 今度会った時覚えてろよばか!」
「イギリス…!」
引き止めるアメリカの声に一度も振り返ることはせず、イギリスは部屋を飛び出した。
(わけわかんねえ!)
息苦しさとは違うもので心臓が圧迫されているのを自覚して、イギリスは内心で舌打ちをする。
けれど頭のどこかでは、その原因に気がついている自分がいるのは確かだった。しかし今はまだ、それには見ないふりをして。気づかないふりをして。
それでも痛む心臓を持て余したイギリスは、手近にある壁へと拳を打ちつけ「チクショウ!」と呻くような声を上げた。
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