コウちゃんをもんもんとさせたかっただけなんだ!
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みよよりは高いけれど、カレンよりは低い。女子として平均的な身長で困ることはなかったが、今は少しだけ困ってしまう。というのも、隣を歩いている人物が男子の平均より高いのが問題だ。180センチを超えるというより、ほぼ190センチな彼との身長差は30センチ以上ある。約頭一つ分違う差は、定規で測るよりも大きい気がするのは気のせいだろうか。
なるべく琥一の顔を見ながら話をしたいのだけれど、そうすると足元がおろそかになってしまう。それで前回盛大に転んでしまったこともあるので、余所見をしながら歩くことをきつく注意されていた。もちろん琥一自身によって。
「うーん」
思わず、声に出して呻く。と、案の定琥一が何だと不審な目を向けてきた。美奈子は少しの間うーんと呻いたあと、あっと声を上げて立ち止まる。当然それと一緒に琥一も歩みを止めて美奈子を見れば、彼女はぱっと顔を輝かせて見上げてきていた。そして、
「コウちゃん、屈んで」
「は?」
「屈んで」
脈絡のなさ過ぎる提案に顔を顰めるものの、相手はお構いなしに同じ言葉を繰り返した。こういうときの美奈子は大体言う通りにしないとへそを曲げてしまうのを知っているので、琥一は言われるままに腰を曲げて屈んで見せた。当然、美奈子との顔の距離は近くなる。と、
「捕獲!」
そう美奈子は言うやいなや、琥一の首に腕を伸ばして抱きついてきた。突然のことに驚いて身を引くこともできなければ、相手が美奈子なために突き飛ばすこともできない。結局されるがままにしがみつかれていると、耳元で美奈子の楽しそうな笑い声が上がる。
「ふふふ、油断したな」
「…オマエな」
「だって、こうでもしないとコウちゃんの顔が見れないんだもん」
言って、美奈子は更にぎゅーっと琥一の首筋に抱きついた。まるで子供同士のじゃれあいではあるが、それはあくまでも美奈子にとってのみ。琥一の方といえば自分の中にある理性を総動員して、オオカミな自分を押さえ込むのに精一杯だ。するとついこの間いった北海道の修学旅行で、羊だなどと不名誉な例えをされたことをうっかり思い出したりしたので、とりあえず記憶の中の弟を殴って黙らせる。とはいってもやっぱりオオカミになるわけにもいかず、琥一は今の状況にどう返していいのかわからずに苦虫を噛み潰したような顔になっていたが、抱きついている美奈子には当然見えない。
琥一は所在の定まらない手を無意味に握ったり開いたりを数回繰り返し、そうしてやけくそ気味な決意を固めると彼女を抱き上げた。ら、今度は真っ赤な顔であたふたするのは美奈子の番で。
そのあとは二人揃って暫く無言になってしまったとかなんとか。
[16回]
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