額と額をくっつけるシチュは正義。
嵐さんとバンビのカップルって無自覚夫婦過ぎて回りがやきもきすると思うんですけどどうか。特にやきもきさせられる筆頭は新名です。
「アンタらなんでそんな夫婦っぷり披露してて付き合ってないの!ていうか好きな自覚すらないとか意味わかんねえし!」と地団駄を踏む新名。そんな不憫かわいい新名が愛しい。
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「押忍」
洗濯物を畳んでいるところへ掛けられた声に反応して顔を上げれば、そこには柔道部主将の不二山嵐がいた。それに対して同じように「押忍」と返せば不二山は制服の入っている鞄を道場の端へと置くと、彼は再び美奈子へと向き直っては洗濯物を畳む彼女の前に腰を下ろす。胡坐をかいて、じっと見つめるその視線は、無表情に見えつつも何もかも見透かされそうでちょっとだけ後ろめたくなる。否、悪いことなどしていないのだが。
そんなことを考えていると、ふいに不二山の手が美奈子の前髪を持ち上げた。晒された額に一瞬戸惑い、抗議の声を上げるよりも不二山の動きの方が早かった。こつ、と相手の額が美奈子の額にくっつけられる。急に縮まった距離に、美奈子の思考が停止した。ぱちぱちと目を瞬かせると、かつてないほどの近い距離にある不二山の目と目が合った。え、と一瞬戸惑って、反射で逃げようとした身体はやっぱり不二山の方の動きの方が早く、もう片方の手で後頭部を押さえられてしまった。
「ああああああ嵐くんっ?」
「なんだ?」
「いやそれわたしのセリフなんだけどな! どういう状況かなこれ!」
「オマエ、なんか熱くねえ?」
「全然平熱です気のせいですわたしは至って健康です!」
「そうか? 顔が赤く見えたから、熱でもあるのかと思った」
「まったくもって健康優良児だから安心してくださいそして離してッ」
「んー」
「なんで悩んでるの!」
「いやなんか、おまえが焦ってるのみるの面白ェ」
「嵐くん!」
ぴしゃりと抗議を込めて相手の名前を呼べば、さすがの不二山もくっつけていた額を離して距離を取った。もう、と呻くように呟く美奈子をおかしそうに笑う。
「悪かったて、ほら。もうなんもしねえよ」
「…とかいって、そういう風に笑ってる嵐くんはいつも何か企んでる」
「じゃあ、何すると思う?」
「え」
「当てたらしないでやる」
「…て、やっぱり何か企んでる!」
言われた言葉に一瞬考え込み、しかしはっと我に返って反論すれば不二山は更におかしそうに笑った。けれどその笑みが引っ込み、ほんの一瞬。本当に一瞬だけ、まっすぐに見つめられた気がした。しかしその目は、美奈子の心臓が一度跳ねる間にすぐにいつもの不二山に戻ってしまった。
嵐くん、と声を掛けようとした矢先、タイミングを計ったかのようにがらりと部室のドアが開けられる。
「ちょりーす!」
軽快な後輩の声の乱入にほっとするのと同時、どこかで残念に思う気持ちに引っ掛かる。もう少しだけ不二山と二人でいたかった、なんて。そんなことを考えて、どうしてそんなことを考えてしまったのかと美奈子は首を捻った。
[6回]
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