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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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卒業式小話

今日はバンビたちの卒業式よ!
ということで、出勤途中で琉夏を受信したので琉夏小話。
本当GS3っていうかGSシリーズが好き過ぎてたまらないわ。文化祭が楽しみすぎて溶けそう。


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 そこここで泣いたり笑ったりと教室中が騒がしい。
 琉夏は教室で行われている喧噪を他人事のように見やりながら、つと、机の上に置いた卒業証書を見やる。黒い筒に仕舞われたそれは、小学校でも中学校でも今日と同じ卒業式にもらったものだ。これを受け取るのを意味するところは、つまり無事はばたき学園を卒業できたということ。明日からは――正確には、この学校を出た瞬間にはもう、この学校の生徒ではなくなる。
「……美奈子」
 ぽつりと、琉夏は無意識に幼馴染の名前を呼んでいた。その瞬間、がたんと席を立つ。そうして兄を呼ぶのと同時に卒業証書を投げつけた。
「わりぃ、それ預かってて!」
「どこ行くんだ?」
「美奈子のとこ!」
「…そうか」
 ふっと目を細めて笑うと一瞬目が合うも、彼はすぐに早く行けとばかりに目で促してきた。それに琉夏は軽く頷くことで返すと、教室を飛び出す。教室の外も同じような光景が広がっていて、ほんの少しうんざりしたけれどそれくらいで止まる気持ちではない。どうにか彼女の教室まで辿りつき、殆どクラスメイトの残っている室内を見渡す。手近にいる生徒の一人に彼女のことを聞くも、知らないと返されたのと一緒に写真を撮ろうと提案されてしまう。しかし琉夏はごめんと手短に断ると、すぐに教室から逃げ出した。途中で同じように写真を強請られることがあったが、それらのすべてを断りつつも、校舎の至るところを探していく。美術室に音楽室、家庭科室に屋上。果ては職員室にまで顔を出して見るものの、彼女の姿はない。ひょっとしてとっくに帰ってしまったのかと美奈子の下駄箱を覗いて見れば、そこには上履きもローファーもなく空っぽになっていた。
「帰っちゃった、のか…?」
 そう独りごちて、想像以上に落ち込んでいる自分に気が付いた。けれど、ふいに琉夏の耳に、子供の頃の美奈子の声が聞こえた気がした。「ルカくん」と呼んで微笑う彼女を思い出すと、弾かれたように顔を上げる。そうして上履きと靴をもどかしげにはき直すと、殆どつっかけるようにして走り出した。目指すのは、裏庭にはある教会だ。
 学校にはまだまだ人が残っているというのがウソのように、教会の周りには人の気配を感じられない。しんと静まっていて、まるでここだけ隔離でもされているかのような錯覚を覚える。
 教会の周りには、ピンク色をしたサクラソウが咲いていた。
 琉夏は乱れた呼吸を整えるように、そうして自分を落ち着かせるように深く息を吐く。
 一歩ずつ近づくたびに、心の内側がざわざわとする。
 琉夏は教会を囲むように咲いているサクラソウの一つを摘んだ。これは妖精の鍵だよ。幼いころに言った、自分自身の言葉を思い出す。思い描いた人の元へと連れていってくれる、魔法の鍵。そうだ、これはあの日の続きだ。サクラソウを探して探して、でも見つからなかったから、だから美奈子は遠くに行ってしまった。だから、好きになってはいけなかったのだと、思った。
 でも今度は、サクラソウはこの手の中にある。
 そうして俺は、また彼女を好きになった。
「……どうか、俺を連れてって」
 祈るように。願うように、琉夏は呟く。
 そうして、教会の扉のノブに手を掛ける。手前に引けば、ぎいと重く軋んだ音を立てて扉が開く。まず始めに目についたのは、ステンドグラス。向かい合う姫と王子のステンドグラスからきらきらと光が零れて、その光を浴びるように探していた相手の姿があった。
「……見つけた」
 驚いた表情で振り返る彼女に、何から話そうかと琉夏は教会へ足を踏み入れた。

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