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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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玄花小話

 子供の笑う声と一緒に、花の声も一緒に聞こえた。
 玄徳は行き先を変えて声の方へと歩いていくと、そこには子供たちと一緒に遊ぶ花の姿があった。この間一緒にやった「しりとり」をしているらしく、彼女たちは一心に地面を見つめている。小枝でしりとりの絵を書く姿を暫く眺めていると、一人の子供が玄徳の姿に気がついた。途端、パッと表情を明るくして、玄徳の元に駆けてくる。
「玄徳さまー!」
 一人の声に反応して、残りの子供も顔を上げる。そうして次々に子供たちが玄徳の元へと駆け寄ってきた。彼は一人一人の頭を撫でて、おかえりなさいの言葉に応える。一番小さい子供を抱きあげれば、ずるいずるいとかわいい抗議が始まった。
 ――と。
「ん?」
 子供たちと玄徳から少し離れたところに、花は何とも言えない表情で立ち尽くしていた。困ったように眉を下げて、手は羽織っている上着を握っている。玄徳は子供たちを連れて花の元に歩みよりながら、声を掛けた。
「どうした?」
「あ、いえ、その……お、おかえりなさい」
 しどろもどろに言う彼女に、玄徳は小首を傾げる。
 けれど、彼女のおかえりなさいに返事をするべく、ぽんと花の頭の上に手を置いた。そのまま柔らかい髪を撫でるように手を動かす。
「ああ、ただいま」
「は、い」
 花は何故か、ますます委縮するように身を縮める。顔も俯いてまうので、玄徳は怪訝そうに表情を浮かべると、抱き上げていた子供を下ろして問いかける。
「どうした? 俺の留守中に何かあったか?」
「いえ、そ、そんなことは」
「じゃあどうして」
「おねえちゃん、お顔まっかー!」
 ふいに、下から花と玄徳の会話に割って入るように声が上がる。それは当然玄徳を迎えてくれた子供たちで、彼らは身長が低い故に俯いた花の表情が見えたらしい。そうして指摘された彼女は子供たちから隠すように顔を上げて、けれどそれはそれで、今度は真正面から玄徳と目を合わすことになるわけで。
「――あ」
 思わず、と言ったように、花は呟く。
 そうして赤い顔をさらに赤くさせたかと思えば、じり、と後退する。
 そして、
「ッ、ごめんなさい!」
「おい、花!?」
 脱兎の如く、花は身を翻して逃げ出した。玄徳は思わず彼女を追いかけるように走りだす。後ろから子供たちの声が聞こえるけれど、走り去っていく花をそのまま見過ごすことは出来なかった。
「――花!」
 先に走り出したのは彼女とて、やはり男と女。さらに身長の差もあって、彼女を捕まえるのは簡単だった。
 殆ど呼吸に乱れのない玄徳に比べて花は肩で息をして、そうしてやはり顔を俯かせた。玄徳は掴んでいた彼女の手を離すと、少しだけ離れて、言う。
「やっぱり、何かあったのか?」
「…ち、がいます」
「じゃあ、俺か?」
「それもその、…ええと」
 しどろもどろに答える彼女に、なんだか自分がいじめているような気分になってくる。たまたまこの場に他の人間が居合わせていないからよかったものの、芙蓉になんて見つかったら何を言われるかと考えて、背筋に悪寒が走った。
「あの、玄徳さん」
 つと、花がようやく顔をあげてくれた。先ほどよりも赤みは収まったとはいえ、やっぱりまだ、少し赤い。眉は八の時に下がったままで、さすがの玄徳も罪悪感に襲われた。これではまるでいじめているみたいで、そんなことをしたいはずがない。今度は玄徳が半歩後退してみせた。ら、
「あの、おかえりなさい!」
「あ、ああ」
「それで、さっき子供たちを抱っこしてるのとかを見て、ちょっとお父さんみたいだなって思っちゃって!」
「…そう、なのか?」
「はい。だから、その、ちょっとうらやましいなって思って!」
「……つまり、抱っこしてほしいと?」
「そうじゃないんです!」
「違うのか?」
「違います! そういう風になっちゃいますけど違うんです!」
「別に抱っこくらいしてやるぞ」
「いいいいです! むしろいいです! 重いですから!」
「おまえくらい大したことない。ほら、してやるから」
「いいですってば!」
「あら、玄徳様と花? 何を騒いでいらっしゃるんですか?」
「ふ、芙蓉姫ー!」
 まるで先ほど考えていたことが実現したかのように現れた芙蓉に、花は一目散に駆け寄っていく。さっと彼女の後ろに逃げられてしまい、こうなってはさすがの玄徳も手が出せない。
「玄徳様、花が何かしました?」
「いや、なんでもない」
「本当に?」
 と、今度は背後にいる花へと、芙蓉は問う。それに花はぶんぶんと力強く頷いた。その姿に噴きだしそうになるのを堪えるように、玄徳はさり気なく口元を隠した。
「あとでみやげを持っていってやる。いい子にしてるんだぞ」
「もう、玄徳さん!」
「じゃあな」
 踵を返してその場から退散すると、ようやく玄徳は堪えていた口元を緩めたのだった。


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ちょっとずつ相手に惹かれ始めた辺り。
最初はこんな風にお父さんお兄ちゃんしてるくせに、後半の大人げなさといったら・・・・(白目)

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