「琉夏くん、どーん!」
いう言葉と同時に、背中が柔らかい感触に包まれた。琉夏は何事かと思いはしたが、焦ることはない。彼女の突撃を何なく受け止めて、後ろを振り返る。と、 幼馴染の少女の期待に満ちた視線と目が合った。
「びっくりした?」
「え?」
「いつも琉夏くんが不意打ちでしてくるから、そのお返しなんだけど」
「……ああ」
言われて、ようやく合点がいった。そういえば最近の自分は隙あらば彼女に抱きついていたかもしれない。もう! とお得意の少しだけ困ったような、怒ったような顔が見たいのと、ついでに彼女に触れるチャンスの二つを兼ね揃えた作戦だったのだが、予想外のところで棚から牡丹餅が降ってきたらしい。ぎゅうと腰に回る手もさることながら、背中に当たる二つの膨らみは正直に嬉しい。当然、男としての下心全開でだ。
琉夏は思わずにやけそうになる顔を無理やり押し込め、代わりに妙に真剣な表情をわざと作ると、相手を見つめる。そうして、
「駄目だ」
と、これまたまじめな口調できっぱりと告げる。えっと驚く彼女には構わず、琉夏は更に言葉を続けた。
「駄目。全然駄目」
「えっと…?」
「どーんてきたあと、腕にもっと力を込める」
「こ、こう?」
「そう。あと更に身体をくっつける」
「ええ?」
「ぎゅーって、力いっぱいするんだ」
「…これでいい?」
「惜しい。もう少し」
「これくらい?」
「あと一声」
「ええええ」
「何してんだこの馬鹿!」
ばしん! と景気良く後頭部が叩かれてしまい、さすがの琉夏も少しだけ蹈鞴を踏む。ついでにびっくりしたらしい彼女の身体も離れてしまって、琉夏は不機嫌に顔を顰めた。が、振り返った先には自分以上に眉間に皺を寄せたオニイチャンがこちらを睨んで、詰め寄られてしまう。
「うーん、コウに近づかれても嬉しくない」
「てめえが馬鹿なことしなきゃ俺だってしねえよ」
「あ、あのコウくん! 元はと言えばわたしが悪くて!」
「そうそう。よし、じゃあハグのやり直しだ」
「え、ハグではないんだけど…」
「やっぱてめえが悪い」
「イテ」
ばしん! と再び琥一によって本日二度目の制裁が琉夏に落とされた。
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