生徒会所属の悩めるバンビを書きたかったんですがどうにも尻切れトンボになってしまった…いや、いつもこんな感じだけどね!
紺野先輩と一緒に困るバンビがかわいいと思う。
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(どうしよう…)
学校からの帰り道でのことである。
とぼとぼと重い足取りで帰宅している美奈子は、所属する生徒会での会議が終わってからずっと同じ言葉を繰り返していた。どうしよう。もはや何度目かわからない言葉を今度はちいさく口に出して呟く。こんなにも美奈子が悩んでしまう原因は、先ほど行われた生徒会会議の内容が原因だ。その内容というのが、会長である紺野が提案した服装検査が近々実施されるというもの。
生徒の見本にならなければならない生徒会に所属するだけあって、彼女が改善すべき点は当然ながら、ない。ならば何に悩んでいるのかといえば、それは幼なじみである二人――桜井兄弟が原因である。特に弟の琉夏は「歩く校則違反」と言われているような人物で、学園内でもあれほど堂々と金髪にピアスという出で立ちで登校してくる生徒は他にいない。否、ピアスだけなら兄も同様ではあるが。
とりあえず生徒会役員としては違反者を取り締まり、正していくのが役目なわけで。しかし、素直にいうことを聞く相手ならばこんなにも悩んだりはしない。
(一応、言うだけ言ってみようかなあ)
桜井兄弟と仲が良いのは紺野にも知られているため、こっそりと期待を込められた言葉をいくつか言われてしまっていた。それがプレッシャーになって、なお更悩ませる原因になっていた。
夕暮れに染まるいつもの帰宅経路を進みながら、ふと、チェーン店である大型薬局の店舗に目を留めた。まるで吸い寄せられるようにふらりと立ち寄ってみる。軽快な音楽といらっしゃいませーという店員の声に出迎えられながら、髪染めのコーナーへと足を向けた。
いくつもの種類のあるそれらを一通り見やり、黒染めのものを一つ、手に取ってみる。
(髪が黒いルカかあ)
思い出せるのは、子供の頃の姿だ。さすがにあの時は普通の日本人らしく黒髪だった。身長だって大して変わらなかったんだよなあとぼんやり考えていれば、ぽん、と肩を叩かれた。あまりにも不意打ちなことだったので、大げさに驚いて振り返れば、少しだけ困ったような顔をした相手と目が合った。
「ルカ…?」
「ごめん、驚かせた」
まさに今、思い描いていた人物の登場に美奈子は改めて驚いてしまう。
当然こちらの心情など知るはずもない琉夏は、いつもの掴み所のない笑みを浮かべながら彼女の隣に並ぶ。その手にあるものを見て、わくわくとした子供のような笑顔を浮かべて、訊く。
「何? 美奈子も髪の毛染めたくなった?」
「生徒会の人間がそんなことするわけないでしょ」
「ええー、金髪でお揃いにしようぜ」
「しません」
「ちえ」
「ルカが黒髪になってくれればいいの」
「え? これ、似合わない?」
彼女の言葉に琉夏は驚いたように言って、きれいに染まっている金色の髪に触れた。むむ、と妙に真剣な顔つきで自身の金髪を見つめる琉夏がなんだかおかしくて、思わず噴出してしまう。
「あ、笑ったな?」
「ごめんごめん」
「じゃあ罰として、おまえも金髪の刑だ」
「だめだってば」
「じゃあピンクとか? ……いいね、似合いそう」
「またそういうこと言って」
「俺は本気だけど?」
言って、琉夏はこちらの髪先に触れるとじっと見つめてくる。なので、勝手に心臓がざわつく。思わず琉夏から視線を逸らし、俯いて口を開いた。
「……金髪が似合ってないわけじゃないけど」
「じゃあいいじゃん」
「でも学校の規則があるから」
「ええー」
再び口を尖らせる彼に、これでは堂々巡りだと内心でこっそり頭を抱えた。しかも困ったことに、今の彼が好きだと思う自分がいるもの だからなお更たちが悪い。
(紺野先輩、ごめんなさい)
やっぱり口に出すことはできずに、胸中でのみ先輩であり生徒会長の困った顔へと謝罪したのだった。
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