「さあ日本! 遠慮なく食べてくれよ!」
「……はあ」
ずずいと押し付けるように渡されたもの――『はんばーがー』を受け取った日本は八の字に眉をしかめ、曖昧な返事を返した。
ただでさえ『ぱん』というものは食べ慣れないというのに、この『はんばーがー』という食べ物(野菜と肉を挟んで『けちゃっぷ』や『ますたーど』、『まよねーず』といった調味料をかけたもの)を始めとした異国の食べものは何かと口にするのを躊躇われることが多い。けれど先日持ってこられた真っ青な『けーき』という菓子よりはましだろうと、日本は自分に言い聞かせる。まだ、こちらの方が食べても害のない色合いをしている。
ぎゅっと目を瞑り、覚悟を決めて一口目にかじりつく。じわり、と肉汁が溢れるのと一緒に、調味料たるケチャップの味が口内に広がる。甘いような、酸っぱいような、今まで食べたことのない味わいに目を白黒させていれば、にこー! と満面の笑みを浮かべたアメリカが訊いてきた。
「どうだい? うまいだろう?」
「……ええと、まあ、はい」
「うんうん! まだあるからいくつでも食べるんだぞ!」
「…一つで十分です」
すでに二つ目のハンバーガーを食べるべく、バーガーの入った紙袋に手を差し込みながら言うアメリカにぽそりと返して、もくもくと小動物を思わせる仕草で食べ続けていく日本。その様子を横目で見ながら、二つ目のハンバーガーに取りかかるべく口を開けたその時。アメリカは食べるために開けた状態の口のまま、「あ」と声を上げた。その声に反応した日本は何事かとハンバーガーからアメリカへと視線を向けると、相手は妙に神妙な顔つきでこちらを見つめているではないか。
「日本」
「はい」
「ケチャップがついてるぞ」
「え?」
言うなり、アメリカはぐっと日本との距離をつめてきたかと思えば、あろうことか彼の口元に付いたケッチャプを舌先で拭って。更にはついでだというように、口の端へ唇を押し付けてから顔を離すと、
「よし」
そう勝手に自己簡潔したアメリカは、何事もなかったかのようにハンバーガーを食べることを再開させる。取り残されているのは、日本だけだ。
(…………ええと?)
あまりにも唐突、且つナチュラル過ぎるアメリカの行動に身体も思考もついていけずに停止してしまった日本。しかし徐々に自分がされたことを自覚していき、内側からじわりじわりと羞恥の熱が点ったそれが全身に広がるまでさしたる時間は掛からなかった。
「あ、アメリカさん!」
「なんだい、日本」
「なんだじゃありません! あ、あ、あんな破廉恥な!」
「うん? どれのことかちゃんと言ってくれないとわからないぞ?」
「……っ!」
この男は…!
思わず叫びそうになった言葉は寸でで飲み込み、手にしていたハンバーガーを握りしめる。むしろこんなことになった原因ではあるが、食べ物に罪はない。八つ当たりをするのは筋違いではあるが、素直に食べ続けることができないのも事実。
暫く手の中にあるハンバーガーと(一方的な)睨み合いを続けていれば、笑うのを必死に堪えた(でも堪え切れていない)アメリカが口を挟んできた。
「食べないのかい? それとも、食べられないのかな」
「食べます!」
アメリカの挑発めいた発言に、殆どヤケになって言い返した日本はハンバーガーにかぶりついた。先ほどより食べるスピードを上げ、だが今度は食べ終わるまでハンバーガーから口を離さない。
(食べ終わったら、すぐにこの場から逃げよう)
日本はひっそりと固く決意し、暫くはハンバーガーを食べることからも逃げようと心に決めたのだった。
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べったべたですいません。
でも王道って王道ゆえにMOEるんだぜ!と主張してみる。
英日が書きたいのになぜか米日ばかり思いつく不思議。
[1回]
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