夢をみた。
楽しみにしていた夏休みに入った途端、あの凶悪な家庭教師に最強(恐)の風紀委員長だった雲雀恭弥の元へ泊まりで受験勉強をしてこいだとか言われるそんな夢。
確かに今年は高校三年生で大学受験を控えてるからもしれないけどそれにしたって追い込まれすぎだろ! と、綱吉は自分で自分にツッコミを入れたところでぱちりと目を覚ました。目を覚ましみたら。なぜか目の前には健やかに安眠なさっている雲雀恭弥の寝顔があって綱吉は悲鳴を上げかけた。叫び声を自分の手で咄嗟に塞いだ自分を褒めてあげたい。だってこの距離で叫んだりしたら雲雀の機嫌を確実にそこねて自分は安眠どころか永眠確定だ。雲雀の寝起きの悪さは中学時代に嫌になるほど(暴力的に)たたき込まれている。
(でもこの状況はどうしたら!)
綱吉は内心で頭を抱えた。寝ている雲雀を起こすなんてこと、そんな恐ろしいことを綱吉ができるはずはない。けれどこの状態も大変心臓に悪いんですけど! と、ばくばくとうるさく鼓動を刻む心臓の音しか聞こえなくなっている。と。
綱吉が一人で葛藤をしている目の前で、もそり、と雲雀が動いた。続いて伏せられた瞼が上がって、隠されていた黒目が現れて綱吉を映す。
「おはよ」
「……オハヨウゴザイマス」
ていうか今何時?
挨拶を返しながらどこか冷静な頭がそんなことを思った。雲雀はふわあとあくびをして身体を起こすと、枕元に置かれた携帯を掴んで開いた。
「六時か」
携帯のディスプレイをみた雲雀がいった。六時。それは朝ではなく夕方のことだろう。開けられたままのカーテンから見える空は、未だ明るいとはいっても確実に夜へと色を変え始めていた。
「さて」
携帯を閉じて、雲雀は綱吉に向き直った。相変わらずの無表情に綱吉はどうしていいかわからず、言葉を失っていた。
が。
ぐきゅるるるるぅ…
「……ッッッ!?」
「ワォ」
漫画じゃあるまいに! と突っ込みたくなるような己の空腹の叫び声に綱吉は声にならない悲鳴を上げた。今更誤魔化すことなどでないのはわかっているけれど、思わず腹を押さえて雲雀を見やると、彼は随分と楽しそうだ。
「お腹、空いたの?」
「……はい」
訊かれた問いに、俯きながらも素直に頷く。
よく考えてみれば、昨日は帰宅していきなりリボーンに今日のことを伝えられたのだから夕飯どころの騒ぎではなかった。どうするべきか、日頃使わない頭をひねってうんうん唸っているといつの間にか朝を迎えてしまっていて、そうこうしてる内に雲雀が現れたものだから逆らうことなど出来ずに彼のバイクに連行された今現在in雲雀邸。あれ、最後の方は誘拐とか拉致とかそういう犯罪的ニュアンスな気がするけど、そんなこと今更このひとにいっても無意味だ。と、綱吉が自己完結し終わったとこで再び腹の虫が鳴いた。
「仕方ないね、ピザでも取ろう」
雲雀はため息を吐いて、再び携帯を開いた。慣れた手つきでダイヤルを押してる間にテーブルの上に折り畳まれたチラシを開いた。どれにするの、と目で訴えられるが、綱吉はお任せいたします! とやはり目だけで言葉を返した。そんなやり取りをしている間に電話の相手が出たらしく、雲雀はピザを二枚、サイドメニューにポテトとサラダ。ついでに飲み物もつけてオーダーを終了する。
微かに聞こえる電話口の相手が震えるような声音でメニューを確認し、以上でよろしいですかと聞かれると雲雀は即座に言葉を返した。
「五分でこなきゃ噛み殺す」
「雲雀さん五分じゃピザはできませんよ!」
思わず突っ込みを入れてしまう綱吉。
でもピザは五分で配達されてきました。
何で!
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