どうして彼女と同じ同性なのかと、こんなにも悩むことはなかった。今までは自分の性別に対して不満に感じることはなかったし、むしろ良かったと思うことの方が多かった。
けれど密は、階下に見える光景を横目に嘆息を吐く。
(私が男だったら)
今すぐにでも、彼女をあの男の前から連れ去ってしまうのに。
内心でいくら祈ったところで、やっぱり密の性別は変わらない。彼女は女性であり、また親友であるあかりの性別も同じく女性だ。
まったくどうしてと独りごちて、密は肩にかかった長い黒髪を払う。今時にしては珍しいくらい素直で真っ直ぐな彼女は、密のお気に入りだった。自分にはない一面を持ち合わせているあかりは最初こそ苦手意識があったものの、深く入り込んでしまうとそんな彼女に対して惹かれずにはいられなかった。勉学も運動も一生懸命で、時折ドジを踏んでは「密さあん」と泣きついてくるのが何よりも愛しい瞬間で。
(だから、かしらね)
つと、密は再び息を吐き出した。
先程から密が見つめる視線の先には、彼女の親友であるあかりと、一学年年上の先輩の姿があった。ただの先輩後輩としての間柄なら良かったのだが、どう控えめに見ても、あかりの方は恋する乙女状態である。そんな親友はいつもよりも5割増しできらきらとかわいらしく、輝いていた。親友としては彼女の恋を応援したいのだが、如何せん相手が悪い。密の出来る限りの情報網を持ってしても、悪い噂しか入ってこないのだ。だからこそ、話はふりだしに戻ってしまう。
自分が男だったなら絶対にあかりを幸せにするのに。
もう一度同じ考えを繰り返す。基本的に無駄なことを嫌い密ではあるが、あかりに関しては別枠だ。
「というわけで、佐伯くん。頑張って」
「なにが?」
「あかりさんのこと」
「…なんで僕に、海野さんの話が振られるのかな」
「さあ? 何でかしらね?」
密と同じように、けれど彼女よりももっとさりげなさを装いつつ隣に立つ佐伯に笑みを向けて、密は窓際から離れた。
去り際、いつもは優等生の仮面を貼り付けた佐伯の表情が、ほんの少しだけ崩れていたけれど、今日は見て見ぬふりをしてあげよう。
(だって男ではない私の代わりに、頑張ってもらう王子様なんだから)
内心で独りごちて、密はこっそりと口角を上げた。
ひとまず、自分ができる範囲で彼女のを守ろうと、中庭を目指して階段を降りていく。
[3回]
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