ちょっとついったで太郎にざわ!となったので太郎vs瑛ネタでござる。
太郎好きな人には本当に申し訳ないっていうか、むしろ瑛好きな人にも申し訳ない。
しかし親友瑛はおいしすぎる。何という弄り甲斐のある子なの瑛
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最近、妙に浮かれているなとは思った。
へらへらふわふわしてるように笑うから、ちょっとした冗談で「好きなやつでも出来たか?」なんて冗談交じりに聞いてみた。ら、相手はちょっとだけびっくりしたような顔のあと、すぐにへらりと最近よく見る顔で、笑う。その笑みに鈍く心臓を刺されたような気がしたかと思えば、あかりはちょっとだけ躊躇うような仕草でもって、頷いた。
「…一つ年上の先輩なんだけどね」
そう彼女が言ったあと、瑛の頭がすっと冷えたのを感じた。けれど恋愛に浮かれた相手がそんな彼の機微に気が付くはずもなく、内緒だよ、と声を潜めてあかりは口調を落として話を続ける。
「二年生になったときにね、偶然知り合ったんだ」
「へえ」
「お世辞だとは思うけど、いつもかわいいって言ってくれて」
「完全にお世辞だろ、おまえはカピバラだ」
「もう、瑛くん!」
そう言って、あかりは目をつり上げた。なんだよ、と瑛はそんな彼女の様子に内心でのみ悪態を吐く。俺だって、かわいいとか言ったことあるじゃないか。それなのにどうしてこちらの言い分はすべてスルーされて、その一つ年上だとかいう先輩の言葉には素直に反応するのか。
(気に入らない)
そう思う矛先は果たしてあかりになのか、彼女が好意を寄せる先輩なのか。両方な気がするものの、比重がどちらに偏っているのかは瑛自身も把握しかねた。ただ、気に入らない。面白くない、という気持ちは完全に瑛の中で確立していた。それと同時にそんな気持ちを持つ自分自身へみっともないと嗜む瑛もいて、ほんの少しだけ冷静さを取り戻す。だが、当然瑛の葛藤を知る由もないあかりは無邪気な笑顔のままで瑛にトドメの一言を刺す。
「…あの、瑛くん」
「なんだよ」
「わたし、あんまり男の子の知り合いがいないから、その…たまに相談、とかって乗ってもえないかな?」
「は?」
自分でも驚くくらい、不機嫌な声が出た。そのあまりにも悪意の籠もった声にはあかりも驚いたらしく、見る見る眉根を寄せて身体を縮込ませた。
「…ごめんなさい」
「何に謝ってんの」
「……瑛くんに頼り過ぎました」
「別に」
どんどん泣きそうになっていくあかりの表情に、表面的な不機嫌さとは裏腹に、心の中は妙に焦燥感に駆られていた。
泣くなよ。
咄嗟に思いついた言葉は、それだった。冗談であかりをからかって怒る表情は何度も見たことはあるはずなのに、それが泣き顔になるとどうしてこうも動揺してしまうのか。
しかも泣かせる原因なのが自分というのが、更に拍車を掛ける。
瑛は自分を落ち着かせるように息を吐き出せば、あかりはなぜかびくっと肩を震わせた。呆れた上でのため息とでも勘違いしたのか、彼女は完全に俯いてしまっていた。
(ああもう)
瑛は胸中でのみ呻いて、頭を抱える。殆ど小動物のように小さくなってしまった彼女を目の前にして、今度こそ本当にため息が出そうになるのを寸でで飲み込んだ。その代わり、俯くあかりの脳天のチョップをお見舞いしてやる。
「いたッ」
「話」
「え?」
「たまになら、聞いてやるっていってんの」
「え?」
同じ言葉、というか単音を繰り返すあかりの顔を真正面から見られず、瑛は微妙に視線を逸らした。すると、数秒の沈黙のあと。あかりの顔がぱっと明るくなったのがわかる。
「ありがとう!」
素直に感謝の言葉を告げる彼女に対して、瑛は得意のポーカーフェイスを保つのが精一杯だった。
[3回]
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