ギンコかわいいよギンコ!
となった結果がご覧の有様である。
罪→罰な流れ。
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朝目が覚めると、泣いているときがある。
特にこわい夢をみたわけでもなく、かなしい夢を見たわけでもない。けれどただただ心の中で「何か」が叫んでいるような気がした。そういうときは頭の奥がうずくような錯覚を感じて、その「何か」が顔をのぞかせそうになる。けれど結局それらのすべては、リサの頭がきちんと覚醒したころにはあっという間に消えてなくなってしまうのだ。だから結局は深く考えることなどせずに「また変な夢でも見たのかな」と、その程度で終わらせてしまうのだった。
「ワーイ、達哉!」
登校時のことである。セブンスの制服を着てバイクに跨っている一学年上の想い人の背中を見つけて、リサは駆け寄った。寡黙な彼は無言でヘルメットを外し、駆け寄ってきたリサに一瞥をくれた。そこまではいつも通り。自分の猛アタックに対して、何も反応が返ってこないことはデフォルトだ。
「おはよ、朝から達哉に会えるなんて嬉しい!」
彼の腕にじゃれるように抱きつくも、やっぱり達哉はなにも言わない。それでいい。そのままでいい。押し付ける感情に応えてくれなくていいと、半ば祈るように願う。達哉への想いは、こうして一方通行のままでいいのだと考えたところで、ふと。そういえばいつから達哉のことが好きなのかと、リサは思い当たった。
達哉はセブンス1の美形と騒がれるだけあって、容姿はすこぶるいい。どうせ付き合うなら見た目が良いに越したことはないものの、それにしてもこんな一方通行過ぎる片思いを甘んじて享受する理由にはならない気がする。
「達哉」
相手の名前を呼ぶ。視線が、リサに注がれる。いつもの彼の目の中に自分が映り、その顔がひどく情けないものなっていた。
まるで迷子の子供のようで、そんな自分と目が合った途端、どきりと心臓が高く鳴る。
――大好きだよ、達哉。
つと、自分の声が。言葉が。脳内で聞こえる。いつも告げている言葉のはずなのに、まるで初めて言ったような告白に聞こえた。
ざわり、とリサの中の「何か」がざわつく。それは泣いて目が覚めたときの感情とまったく同じだった。どきどきと早くなっていく心臓が苦しい。
「リサ」
今度は、達哉がリサを呼んだ。いつもの達哉が目の前にいるのに、まるで別人のように見えて、けれど次の瞬間には「違う」と確信した。
「達哉、わたし」
「忘れろ」
きっぱりと、達哉が言い放つ。その言葉を聞いた途端、ぐらりとリサの視界が揺らいだ。
「おまえは忘れてていい、俺だけが覚えてるから。…こんな思いをするのは、俺だけでいい」
言う達哉の言葉には促されるように、リサは視界はおろか意識すらぐらついてきた。揺れる意識に振り回されながら、リサは達哉を見つめる。徐々に瞼が重くなっていく。閉じてしまいそうになる瞼に何とか抵抗を試みて、けれどすぐに失敗に終わる。あっさりと閉じられた視界の中、暗闇が広がる世界に一匹の金色の蝶がひらめいた。
次に目が覚めたときはセブンスの保健室だった。
しかしこのときのリサは、再び忘れていたことを「忘れて」いた。
残っているのは、達哉へのどうしようもない恋心だけである。
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