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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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大迫小話

アンケでいただいたリクでござる!
大迫ちゃんとか初めて書きましたが楽しかった!大迫ちゃんいいよ大迫ちゃん!
GSシリーズだと一番「先生」な感じが溢れていて大好きです。
若王子先生も氷室先生も大好きでござる。だがしかし、若王子先生に限っては早くデイジー結婚してあげてと切に願うほど彼の食生活が心配です。

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 実は、羨ましかったりするのだ。常に大迫に追いかけ回されている幼馴染みの二人が。
 そんなことを言おうものなら、兄の方はこの上なく嫌そうな顔をするだろうし、弟の方はじゃあ一緒に悪い子になっちゃおうだなんていってくるのは明白なので決して言わない。というか、いくら構ってほしくとも大迫に迷惑を掛けたいわけではない。
 ただ、大多数の生徒ではなく、一個人の人間として認識して欲しい。願いとしてはささやかそうではあるが、如何せん自分と相手の立場は教師と生徒だ。美奈子はともかく、教師である大迫がそんな風にたった一人を特別扱いなどできるはずない。それに、そんな風に分け隔て無く生徒を見守ってくれる大迫だからこそ、美奈子は好きになったのだ。
 だから特別に見てもらえずともせめて、大迫の迷惑にならないようにしよう。優等生にはなれずとも、優良な生徒でいようと心がけていたはずなのに――どうしてこうなった。
 美奈子は自分以外誰もいない放課後の教室で泣きたくなった。
 机の上には問題集が広げられており、その問題は遅々として進まない。
 教室の窓から差し込む光は、すっかり夕焼けのオレンジ色に染まっている。野球部が校庭を走るかけ声に混じって、体育館のバレー部員の声も届いてくる。そのバレー部に所属する友人のことを思い出しながら、いやいやいや、と頭を振って問題集に意識を戻す。
 問題集に載っている数式に目を通し、悩む前にため息が出てしまう。
(補習だなんて、情けない)
 内心で独りごちると、再びため息。優良生徒を心がけていたはずなのに、結局は盛大な迷惑を掛けるはめになってしまった現実に頭が痛い。言い訳を言わせて貰えるのならば、最近始めた柔道部のマネージャー業務が予想外に大変だったのだ。同好会のときは使用できる空き部屋の確保に走り廻り、そうして部になってからは増えた部員の体調体重管理に、部費やら備品の管理のすべてを美奈子が請け負っていた。顧問が大迫ということもあり、気負っていたことも自覚している。だから、つい、うっかり、勉強の方がおろそかになってしまっていた。日々の授業はノートに取っているつもりでも、柔道部の業務に疲れてうたた寝をしていることもしばしば。そうなるとテスト結果が悲惨なことになるのは当然といえば当然だ。16年生きてきた人生で初めてみる赤点のオンパレードに、美奈子は深く反省した。ついでに落ち込んだ。
 補習を余儀なくされると、当然見届けるのは担任の大迫だ。しかも自分以外誰も補習を受けずに済んでいるところが輪を掛けて美奈子の羞恥を煽った。
「小波、どうだ? 進んでるか?」
 先程校内放送で呼び出された大迫が戻ってくるなり、そう声を掛けてきた。またもや思考の迷宮にはまりかけていた美奈子はその声にはっとなり、顔を上げる。半分も埋まっていない問題集を視界の端で捉えて、ええと口ごもることしかできない。
「わからないことがあったらなんでも訊いていいんだぞ」
「…はい」
「どうしたぁ? 何かあったか?」
 地声の声の大きい大迫の声は、二人きりだとよりはっきりと美奈子の元に届いた。気遣ってくれる言葉はうれしくて、でもこんな風に気遣われてしまう自分が嫌だった。大迫の特別にはなれずともせめて、自慢に思える生徒に慣れればと思っていたはずなのに、今は遠くかけ離れている。
 みっともない。
 情けない。
 そんな感情が美奈子の中に押し寄せてきて、気が付くとぼろぼろぼろ、と大粒の涙が零れていた。
「小波?」
「ごめ、ごめんさい…ッ」
「謝らなくていい」
 突然の涙に、美奈子自身が一番驚いた。慌てて手の甲で拭って止めようとすると、大迫がハンカチを差し出してきた。涙を流したままの状態で大迫とハンカチを交互に見やると、相手は美奈子の手にハンカチを押し付けてきた。美奈子が押し付けられたハンカチに戸惑っていれば、大迫は目の前の席に腰を下ろす。校庭を見つめる横顔に、一瞬だけ見とれてしまう。
「小波は、勉強は嫌いか?」
「…嫌いというか、苦手、です」
「なら、大丈夫だ」
「え?」
「誰だって、何だって、最初からできる人なんでいない。だから今は躓いても、きっとできるようになる」
「……なりますか」
「ああ、小波が毎日柔道部で頑張ってるのを先生は見てるからな。そのおまえが、できないはずない」
 そういって、大迫はこちらへと笑顔を向けた。それは、大迫の一番好きな表情だった。大迫の笑顔は太陽みたいで、あったかい。そんな太陽みたいな彼からの言葉は笑顔と同じくらいあったかく、美奈子の中にすんなりと染み渡った。
 そうして、涙の勢いは落ち着いてきた。しかし美奈子の涙を吸ったハンカチが改めて大迫のものだと思い知って、今度は顔が熱くなる。
「…先生、ハンカチお借りしてすみません」
「ハンカチくらい気にするなぁ! 小波が泣き止むなら、先生、いくらでも買ってきてやる」
 言って豪快に笑う大迫に、美奈子もつられて笑った。
「先生」
 一頻り笑ったあと、美奈子はぽつりと相手を呼ぶ。大迫も笑うのをやめると、真剣な目を向けてくれる。その目を見て、改めて好きだなと思った。教師としても、一人の男性としても、なんて素敵な人なんだろう。
 大迫が担任で良かった。出会えて良かった。だから、こんなところで挫けてはいけない。泣いている場合じゃない。立ち上がって歩き出して走り出して、最後に笑顔でゴールするための努力を怠けてはいられない。
「わたし、次のテストは頑張ります」
「…そうか」
 そういって、大迫は目を細めて笑う。
 走りきった先にどういった形のゴールが待っているかはわからないが、自分ができる限りの全力を尽くそうと、美奈子はそっと心に誓ったのだった。

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