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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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琥一誕生日2012


今日は琥一のバースデーですよー!
おめでとう琥一!大好きだ琥一!!
いつまでも琉夏とバンビのお兄ちゃんでお母さんでお父さんでいてね!!
相変わらずの一発書きですが、愛だけは籠っている!つもり!!!!

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 一日で一番長い休み時間は、お昼時間だ。
 美奈子は早々にお弁当を食べ終えると、不信がる友人たちを残して校舎内を彷徨っていた。
 きょろきょろと辺りを伺いながら、目的の人物を探して歩く。まだ昼食は始まったばかりなので、そこここに生徒たちの姿があるものの、目立つ彼の姿は中々見当たらない。
(…でも)
 つと、美奈子は立ち止まる。手の中にある小さな袋に視線を落とし、嘆息を吐く。
 美奈子の探しているのは、桜井琥一という幼馴染だ。子供の頃はよく一緒にかくれんぼをするような間柄だったけれど、美奈子がはばたき市から引っ越してしまってからは、ぱったりと関係が途絶えてしまった。しかし高校の進学と同時にはばたき市に戻り、入学式の日に再会を果たしたのだ。
 その再会から、そろそろ二か月が経とうとしていた。
 再開を果たしてのは二か月でも、離れていた時間は数年に及ぶ。
 その間、当然自分と同じように彼らも成長してきたわけで。彼の弟の琉夏と違って、琥一はどこか近寄りがたい雰囲気があった。それは彼自身もそう促している節があり、「幼馴染」とはいっても迂闊に踏み込めない。そう思うのは、入学式の日に琥一にぶつかってすごまれてしまったからかもしれないが。
 けれど先日、たまたま外出した先で琥一とばったり出くわしたのだ。
 美奈子には到底縁のないバイク屋の前で、真剣な顔でじっとバイクを見つめている琥一に、思わず声を掛けてしまった。近寄りがたいと思っていた琥一は、話みると見た目の印象よりずっと話しやすかった。そうして話ている内に、子供の頃を思い出す。そうだ、琥一はいつだって自分や琉夏を気にかけてくれる、優しい男の子だった。言葉や行動が粗野でも、内面はとても暖かい。そのことにうれしくなって、あれこれと話をしている内に5月19日が誕生日だということを知った。そのときはそうなんだーと流して終わったが、日々カレンダーを見るたびに、19日をチェックしている自分がいるものの、正直男の子相手にはどんな誕生日プレゼントを送っていいのかわからない。長年一緒にいたならば、彼の好みも理解できただろうが、再会したのがほんの二か月くらい前なので無理な話だ。
 なら、どうする?
 きっと琥一は、美奈子が誕生日プレゼントを贈らなくても、気にすることはないだろう。だから単純に、美奈子の問題だった。
 けれどやっぱりどうしていいのかわからずに堂々巡りを繰り返している中、つと、思い出したい。
 先日の休みに会った琥一はバイク屋の前にいて、誕生日がきたらバイクを購入するのだと言っていた。バイクと言えばヘルメットやグローブが必要なのだろうかと、インターネットで調べてみたがイマイチぴんと来ず、最終的に美奈子が選んだものははばたき神社での「交通安全」のお守りだった。
 だが、誕生日にお守りなんて、と今更のように後悔が押し寄せてきたのだ。
 しかし、これからバイクに乗る琥一にけがをしてほしくないのも事実だった。折角再会できた幼馴染なのだから、これからもっと、たくさん。色々なことを話したい。過ごしたい。だから、このお守りがきっかけになればいい。そう思っていたのだが、琥一が見つからないことでどんどん気持ちがマイナスな方向に傾いていく。どうしよう、やっぱり止めようか?
 美奈子のマイナスゲージがいよいよ振り切ろうとしたとき、おい、と後ろから声が掛けられた。
「何してんだ、オマエ」
「こ、琥一くん」
 探していた当人から声を掛けられて、美奈子は上ずった声を出してしまう。咄嗟に手に持っていたお守りを後ろ手に隠してしまい、言葉に詰まる。
「あの」
「あ?」
「あの…琥一くんってさ」
「ああ」
「今日、誕生日…だったよね?」
「あー、そういやそんなもんだったか」
 特に興味もないような口ぶりの彼の態度に、再び気持ちが挫けそうになる。だが、手の中にあるお守りの存在に突き動かされるように、俯いた視線を持ち上げた。しかし彼の顔までは見れず、制服のネクタイの部分を見て、言う。
「これ…大したものじゃないんだけど、その、ほら! バイク買うってこの間言ってたから!」
 言ってしまったあとの勢いでもって、お守りを差し出した。数秒の間があって、琥一が美奈子の手からお守りを受け取ったかと思うと、また、沈黙が落ちる。
「……あの?」
「……なるほどな」
「え?」
 ぽん、と美奈子の頭に、琥一の手が乗る。
 そこでようやく美奈子は琥一の顔をまともに見ることができた。彼は子供の頃と変わらない、否、それよりももっと優しい目をしていた。
 そして、
「上出来だ」
 それだけ言って、くるりと踵を返す。取り残された美奈子は数秒その場に佇んでいれば、じわじわと顔に熱が集まっていくのがわかる。頬の熱さを確かめるように両手で包み、
「………喜んでくれた、よね?」
 と、独りごちた。

 放課後。
 お守りのお礼だと言って、琥一と琉夏の三人で喫茶店に寄った。
 その日をきっかけとして、ぎこちない幼馴染から一歩進めたような、そんな気がした。

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不二山小話

嵐さんまじ小悪魔!ってなった結果がご覧のありさまですよ。
男女間の自覚をまったく気にしてなかった嵐さんが自覚しちゃったら辛抱たまらなくなってしまいました。本当嵐さんには無限の可能性があるな・・・

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 美奈子が女だということはわかっていた。けれど正しく理解をしていなかったのだと、最近になって不二山は気が付いた。
 もちろん男女という性別があるのはわかっていたが、別段意識して考えたことがなかったのだ。男でも女でも同じ人間。不二山の根本はそこであった。だからある意味、正しく「男女平等」だった。
 しかし、つい先日美奈子と出かけた海辺でのこと。いつものように他愛もない会話をして、その時にちょっとした戯れの延長で美奈子を投げ飛ばしてしまった。新名や他の柔道部員よりも軽く、そしてあっけなく放り投げられてしまうことに、不二山の心臓は今まで類を見ないほど大きく動揺した。
 助け起こそうとして掴んだ手首が改めて細い事実にも気が付いて、さらに不二山の思考は混乱する。
 子供の頃、身体の弱かった自分は柔道と出会い、今のように鍛えられた身体になったけれど、美奈子は違う。
 彼女は自分とは――男とは違う生き物なのだ。
 そう自覚したら、美奈子を見る目が一気に変わった。
 いつものペースで歩く不二山とは歩幅も違い、一生懸命ついて来てくれているのがわかる。
 こんな些細なところでさえ自身との違いに気が付いて、不二山は足を止めた。当然それに習って美奈子も足を止めて、不思議そうな顔でこちらを見上げる。
「早いか?」
「え?」
「俺のが歩くのが早いから、ほら」
「え?」
「手、繋いだら少しはラクだろ?」
「ええっ!?」
 先ほどから同じ単音しか発しない美奈子は、最終的には驚いたような顔になった。ぱちぱちと大きな目を素早く二回瞬きしたあと、差し出した不二山の手と、こちらの顔を交互に見やる。
「……あの」
「ほら、行くぞ」
「わ」
 何故か中々手を繋がない彼女にしびれを切らして、結局不二山から相手の手を取った。一回りほど小さい美奈子の手は、大きさだけではなく感触も違う。柔らかい美奈子の手に、不二山の心臓が一つ大きく鼓動を打った。その後にいつもより早く脈拍が続いて、不二山は内心で首を傾げた。
 とりあえずわかることは、まだもう少し美奈子と一緒にいたいということだけだ。

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天童小話

GS3世界の天童と1主を妄想したらなんか楽しくなってしまった小話。
琉夏バン前提な天主です。高校生カップルな琉夏バンを見てあーかわいいなーあんな初々しい時期があったよなーとか感慨にふけるものの第三者からしたらおまえらだったあんまり変わってないよ!はやく結婚しろよ!って言いたいだけの話。


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 待ち合わせのすぐ近くで見つけた喫茶店は、それなりに混み合っていた。美奈子はぐるりと店内を見て、外の様子が確認できるカウンター席を選ぶと空いている席に腰を下ろした。バッグから携帯電話を開き、メール画面を開く。先ほど待ち人からの「ワリィ、遅れる!」と書かれたメールに対して「近くの喫茶店にいるね」と簡単な返事を打って送信完了。するとそのタイミングで水の入ったグラスを手に、店員が現れた。コーヒーを一つだけ注文して、美奈子は視線を前に向けた。ほどなくしてコーヒーは美奈子の元に運ばれてきた。黒い液体に砂糖とミルクの両方を入れようかしばし悩んで、結局ミルクだけにする。スプーンでくるくるとミルクを混ぜて一口コーヒーを口に運べば、独特の苦みが口の中に広がった。
 休日のショッピングモール広場には、自分と同じように待ち合わせをしている人たちが目立つ。男友達や女友達、そうして恋人同士。そんな様々な待ち合わせをする人たちを何となく眺めていれば、ふいに目立つ金色の髪が目に飛び込んできた。髪を金髪に染めている人など珍しくもないのだが、なぜか「彼」に目が引かれた美奈子はそのまま目線でその姿を追いかけた。
 金髪の彼が走って向かった先には、ボブカットの少女が待っていた。おそらくデートの待ち合わせにでも遅刻したのだろう。彼女の元に辿りついた彼が、言い訳か謝罪の言葉を言ってるのがわかる。少女の方はツンとした表情で少しだけ怒ったような仕草を見せるも、すぐに相手に向き直った。そうして少し困ったような表情は、次第に笑顔になっていった。
 ああ、かわいいなあなんて。
 美奈子は高校時代よりうんと長くなった髪の毛先を指に絡めながら思った。くるくると意味もなく指先に巻いてみる。そういえばあの彼女の髪型は高校時代の自分と同じくらいの長さだったなと考えたところで、「ワリィ」と聞き慣れた声と共にこちらの待ち人もやってきた。メールと同じ謝罪の言葉に少しだけ口角が上がる。天童は美奈子座るカウンターの席までやってくると、すまなそうな顔でこちらを見ていた。美奈子は先ほど見ていた彼女と同じように、ちょっとだけツンとした態度を心がけて、言う。
「遅刻です」
「だから、悪かったって」
 そう天童が言うと、すっかり黒で定着した髪の前髪がさらりと揺れた。思わず美奈子は彼の前髪に指先を伸ばし、触れる。
「いいよ。ちょっと意地悪言いたくなっちゃって」
「…ゴメン」
「だから、いいってば」
 くすくすと美奈子が笑うと、ようやく天童もほっとしたように表情を緩めた。そうして空いているカウンター席の隣に腰を下ろす。先ほどと同じ店員がメニューを聞きにきたので、彼もコーヒーを一つ注文した。
「ケーキ食う?」
「ご機嫌取り?」
「そ」
「ふふ、じゃあショートケーキ」
「オッケー。じゃあコーヒーとショートケーキ」
 天童の注文に店員は「畏まりました」と言って店の奥へと消えていった。美奈子は天童から再び外へと視線を向ければ、先ほどのカップルはすでに移動してしまったらしい。デートなのだから当然と言えば当然だが、もう少しあの二人の姿を見ていたかったなあとちょっとだけ残念な気持ちで嘆息を吐いた。すると、ぐっと天童が顔を近づけてきた。
「俺以外によそ見?」
「まーたそういうこと言う」
「俺はいつでも本気だけど?」
「ショートケーキでご機嫌取るくらいだもんねー」
「だから悪かったって」
「わたしもね、そういうんじゃないの」
「じゃあ、何?」
 うーんと美奈子は言って、再び長い髪の毛の先を指先に絡めた。先ほどの彼女のボブカットと、高校時代の自分を思い出す。言う。 
「髪、切ろうかなって思って」
「どれくらい?」
「高校生のときくらまでばっさりと」
「じゃあ俺も金髪に戻すか」
「それはダメでしょ」
「だよなー」
 大げさにため息を吐く天童に笑うと、タイミングよくコーヒーとケーキが運ばれてきた。美奈子は真っ赤なイチゴが乗ったショートケーキを目の当たりにして素直にテンションを上げて喜んだ。備え付けのフォークを手にし、一口ケーキを口に運ぶ。うん、おいしい。
「なあ」
 つと、ケーキに夢中になっていたところに聞こえた天童の声に顔を上げると、彼が先ほど美奈子がしたように前髪に触れてきた。
「好きだぜ」
「…なに、いきなり」
「いきなりってか、ずっとそうなんだけど。何かすげー言いたくなった」
「今言わなくても」
「照れてる?」
 なおも何か言い募ろうとする天童の口へ、ショートケーキのてっぺんを彩っていたイチゴを押し付けた。もぐもぐと咀嚼する彼を睨みつけてみるも、彼の顔はさらに機嫌よく笑うだけだ。
 さっきまでの形成は完全に逆転されてしまい、今日これからのデートプランの行く末にちょっとだけ不安を覚えた。

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イケおねえと幼女にぱーんしたらこうなった

「Ib」というPCフリーホラーゲームを最近知りまして。
基本的にホラーは大の苦手な私ですがこれはもうすごくストーリーが良くてもえ滾った上にイケおねえ×幼女という新境地を開拓しました。ギャリーまじイケおねえ。
EDが全部で5パターンあるんですが、とうやく真EDみたらもうウワアアアアアアアアアアアアってなってしまったらこの様です。ギャリーとイヴは幸せになれ。ギャリーのロリコンフラグがだだ立ちだけどさ!
個人的なギャリーの年齢は25くらいかなーとか思ったんですが、25歳と9歳の年齢差16歳・・・ざわ!となったので20歳くらいに留めておこうと思います。昨今歳の差婚が流行っていますがやっぱり11歳差くらいが現実的かなと。

一人でギャリイヴ祭り開催中です。


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 子供の、とりわけ女の子の成長は早い。
 ほんの少し目を離した隙に、あっという間に「女」になっているのだから。


 彼女――イヴという少女とはゲルテナという芸術家の展示会だった。あれからすでに5年という歳月が経ち、当時9歳だったイヴは今年で14歳になる。今でもどちらかと言えば小柄な彼女ではあるが、やはり9歳と14歳は違う。子供だ子供だと思っていても、ふとした瞬間の仕草や表情が、大人へと近づいてきているのを実感させられる。変わらないことと言えば、黒くて真っ直ぐなロングヘアだろうか。くせっ毛な自分とは正反対の彼女の髪が、ギャリーのお気に入りの一つであった。
「……」
 つと、通りに並んだショップの窓ガラスに映った自分の姿を目に留める。ほんの少しだけ前髪に触れて、手首に巻いた腕時計で時刻を確認した。待ち合わせの時間まであと5分。けれどきっと、イヴは先に来ているのだろう。そう思うと、ギャリーの歩くスピードは速くなる。
 待ち合わせ場所まであと数メートル。
 そうして待ち合わせ場所と共に、視線の先には見知った少女の姿を見つけた。だが、そこにはイヴに馴れ馴れしく声を掛けている見知らぬ男の姿もあった。
 どうみてもナンパであるそれに、ギャリーは思わず立ち止まってしまう。ナンパをしている男に怖気づいたのではない。当然と言えば当然のことを、今更思い知ったからだ。
 イヴはもう、いつまでも9歳の子供ではないのだ。
 あの小さくて、けれど気丈な少女は直実に成長という階段を昇っていた。そうしていつか、あんな風に自分の知らない男と恋に落ちるのかと考えて、心臓がざわついた。

 わかっていたことだ。
 子供は成長する。
 少女は女になる。
 イヴは、大人になる。

 ――じゃあ、アタシは?
 すでに成人を迎えて、我ながら男とも女ともつかない中途半端な位置でふわふわしているアタシはどうなのだろう。
 少し前までは、それでよかった。これが、この生き方がアタシらしい。そう言い切れたのに、イヴに出会ってから揺らぎ始めた。正しくは、イヴの前でだけ「男」でいたいと思っていた。
 つと、男がイヴの手首を掴んだことでギャリーははっと我に返った。慌ててイヴの元に駆け寄ると、男の手を振り払う。
 イヴを背中に匿うように立ち塞がれば、相手は怯んだようだった。
「この子に何か?」
 努めて低い声で言ってやると、男は舌打ちをしてそそくさと逃げていった。ギャリーはやれやれとため息を吐いて振り返ると、イヴの大きな目がこちらを見上げていた。その目が笑みの形に細められる様に、どきりとする。
「ありがとう、ギャリー」
 相変わらず耳に心地よい声で、イヴ。
 ギャリーは冷静さを装いながらも、彼女の頭を撫でた。
「悪いわね、助けに来たのがかっこいい王子様じゃなくて」
「なんで? ギャリーはかっこいいよ?」
 きょとんとした表情になったイヴは、心底疑問を持った声で言った。その言葉に再びギャリーは動揺しそうになるのをぐっと堪えなければいけなくなった。
「本当、イヴはいつからそんなお世辞が言えるようになったのかしら」
「お世辞じゃないよ。わたしにはギャリーが王子様だもん」
 やだこの子こわい。
 無意識で言ってくる無垢な彼女の言葉に、ギャリーの何かが崩れそうになったのは言うまでもない。
(…ていうか、とっくの昔に手遅れなのかも)
 ずっと見ないふりをしてきた自分の気持ちと、もうそろそろ真剣に向き合わなければいけないと、ギャリーは胸中で独りごちた。

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嵐小話

 柔道部をアピールするために文化祭のイベントで行った百人掛け。言い出した本人で主催者でもある不二山本人は、「せいぜい二十人程度で限界だろ」と言っていたが、実際はその十人を超えた三十人を相手にする結果に終わった。
 美奈子も柔道に携わって半年足らずではるが、その結果が十分過ぎるほどにすごいのは理解できた。けれど、不二山は三十人という結果に「しょうがない」と言いつつも、どこか悔しさを拭いきれない表情をしているのが気になった。
「嵐くん?」
 すっかり空は夕暮れのオレンジ色に染まった時間帯。
 文化祭は終わり、校舎の中ではまだまだ片づけに残っている生徒たちの声が響いていた。各ゆう美奈子もまた、クラスの出し物であった喫茶店の片づけが一段落したのもあって、このプレハブ小屋に足を運んだのだ。
 カララ、と軽い音を立ててスライド式のドアを引くと、部屋の真ん中で正座をしている不二山の姿があった。美奈子には背中を見せるようにして座っていたため、彼の背中に向けて声を掛ける。すると、彼女が声を掛けるのと同じタイミングで不二山が振り返った。
 押忍、といつものように言って、不二山は立ち上がった。部屋の隅に置いておいたカバンまで歩み寄り、その大きなスポーツバッグを肩に掛ける。
「クラスの方、悪いな」
「ううん、だって嵐くんは百人掛けの片づけ、殆ど一人でやったんでしょ?」
「まあ、言い出したのは俺だし」
 不二山は改めて室内へと振り返り、苦笑を浮かべて見せた。
「なんかさ、まだまだだよな。俺」
「え?」
「こんな立派なプレハブ小屋を作ってもらったっていうのに、たった三十人くらいで根を上げちまうなんてさ」
「そんな」
「言うな」
 慌ててフォローしようとする美奈子の言葉を、不二山は素早く制した。静かだかだが強いその声に、美奈子は言葉を飲み込んだ。代わりに相手を見つめれば、先ほどよりも困ったように笑ったあと、彼は眉根を寄せて難しい表情になった。
「今は俺を甘やかすことを言ったら、ダメだ」
「そういうつもりじゃ」
「わかってる。でも、俺が勝手に甘えそうになるから、おまえに」
 だから悪いなと続けて、不二山はポンと美奈子の頭の上に手を置いた。その手はすぐに離れていくと、「帰ろう」と促す。美奈子は、うん、と一つ頷くと、彼のあとに続くようにプレハブ小屋を出た。大迫から預かっていた鍵でしっかり戸締りをして振り返れば、先ほどよりもオレンジの色合いが濃くなった空を見上げて目を細める不二山の隣に並ぶ。
「…うっし」
 気合いを入れるように呟いてこちらを見たその顔は、いつもの彼に戻っていた。しかし、いつもの不二山の表情であるはずなのに、美奈子の心臓はふいに、どき、と大きく鼓動を打った。あれ? と思って思わず胸元を抑える。するといつもよりほんの少しだけ早い鼓動が手のひらに伝わり、ますます動揺している自分に気が付いた。
「どうした?」
 ひょいと美奈子を覗きこむようにして顔を近づける不二山に、思わず後ずさりしてしまう。
「な、なんでも!」
「そうか?」
 不思議そうに小首をかしげる不二山は、すっかりいつもの彼のペースに戻っていた。美奈子はそんな彼の隣より気持ち後ろを歩いて、そっと息を吐き出した。もう一度胸元に手を当てるも、鼓動は落ち着いた一定のリズムを刻んでいる。そのことに今度は安堵の息を吐くも、難しい表情になるのは美奈子の番であった。
「おい、置いてくぞ」
「あ、待って!」
 いつの間にか数歩先を歩く不二山が振り返り、声を掛けてきた。それにはっと我に返り、慌てて彼の後を追う。

 自覚し始めた恋心は、また当分無自覚に消えていった。

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