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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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天童と1主を同じ学校に通わせたいだけ

稀にカッ!<○><○>と来る天童ブームなんですが、公式のイベントが少なすぎる&違う高校ということでぎりぎりしてたんですが、だったら同じ学校に通わせたらいいじゃない!とパラレルどんとこい設定です。苦手な方はリターンで!
そして書きたい部分だけを書くという書きなぐり戦法です。それはいつものことでした。

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 放課後の図書室を利用する生徒は、あまりいない。
 一番賑わうのはお昼休みで、HRが終わってからは大体下校か部活へと生徒は流れている。いたとしても借りていた本を返却する程度で、長居をする人は少ない。だから、放課後の図書館はある意味穴場なのだ。元々読書好きなのもるが、テスト前などはよくここで勉強することが多い。自宅にいるとついつい他のことに気が散ってしまって集中できないが、図書室ならば勉強だけに専念できる。ついでに本も借りれるしで一石二鳥だった。
 そうして今日は、新しい本を開拓しようとやってきたのだが、なぜか美奈子は図書室の一番奥の棚に追い込まれていた。棚を背にしているのが美奈子の方なので、当然彼女は逃げられない。
 そんな美奈子を追いつめているのは、まばらな金髪が特徴的な、同じはね学の男子生徒だ。天童壬という名前の彼は、はね学内外ではちょっとした有名人だ。あまり良くない方向で。しかしこの天童は、美奈子の恋人だったりするのだが。
「て、天童くん…退いて?」
「やだ」
 全力で嫌な予感しかしない美奈子は、なるべく平穏に事を済ませようとするも、相手はばっさりとその逃げ道を切ってきた。ひくっと顔が引きつるものの、美奈子はもう一度説得を試みる。
「ほら、ここ、学校だから」
「知ってる」
「図書委員の人もいるし」
「知ってる」
「他にも図書室使ってる人もいるし」
「知ってる」
「だ、だから」
 美奈子が何かを言うたびに、天童はどんどん距離を詰めてくる。逃げようと身体を引いてみても、背後に棚がくっつくほど追いつめられている状態ではこれ以上逃げられるはずもなく。最後の抵抗とばかりに手にしていた本を顔の前に翳してみれば、「本、邪魔」と言われてあっさりと奪われてしまった。天童は奪った本を適当な隙間に押しこむと、さらに美奈子との距離を詰めてきた。鼻先がぶつかり、お互いの呼吸が触れるほどに近い。心臓はどきどきなんて生易しい音ではなく、どんどんとドアを叩くようにうるさく鳴り響く。真っ直ぐに見つめられる彼の目から、視線を逸らすことができない。天童の手が、美奈子の腰を抱き寄せる。待ってと制止の言葉を飲み込むように、彼の唇が美奈子の口を塞いだ。
 遠くで、野球部かバレー部の掛け声が聞こえる。
 図書室のドアが開く音が聞こえて、びくっと肩が跳ねた。すると、それに反応してか、天童の口づけはますます深くなる。ぬるりと舌が唇を割って差し込まれて、くぐもった声が零れる。ぴちゃぴちゃと互いの舌がが絡まるたびに上がる水音に、美奈子は内心で冷や汗を掻く。いくらあまり使う人がいない図書室だとはいっても、誰もいないわけではない。生徒ならまだしも(それはそれで問題はあるが)、教師に見られてしまったらと考えた美奈子はぐっと天童の胸を強く押した。
「て…んっ、だ、ぁめ」
「もう、ちょい」
「だめ、だって」
 美奈子の制止を無視して、天童はさらに彼女の身体を棚に押しつけるようにする。顎を固定されてしまい、折角離れた唇は再び押し当てられた。
「…む、んっぅ、んん!」
 それでも天童の胸を押して抵抗すると、諦めたように天童が顔を離していった。はあはあと荒い呼吸を繰り返していれば、彼の指先が互いの唾液で濡れた美奈子の唇を拭った。
「なんかえろい」
「ば…っ」
 思わず大声が出そうになって、けれどここが図書室だと思い出した。ぐっと喉元で言葉を詰まらせたあと、つんと顔を横に逸らす。そうして天童の腕の中から逃れれば、ごめんと彼の言葉が追いかけてくる。
「美奈子、悪かった」
「知らない」
「だってよ、最近おまえとキス出来なかったから」
「そ、そういうこと言わない!」
「なんで?」
「恥ずかしいから!」
「俺は恥ずかしくないけど?」
「わたしは恥ずかしいの!」
 小声で、けれどぴしゃりと言ってやれば、わかりやすく天童はしゅんとした。その様はまるで御主人に怒られた犬のようで、美奈子はうっかり絆されそうになる。天童という男は、見た目に反してこういう表情をするのがずるいと、美奈子は常々思う。そういうところがかわいいだとか、好きだとか考えてしまう時点ですでに色々と負けているのだが、そのことについての自覚はない。ついでに言えば、美奈子自身が割と天童の地雷を踏みまくっていることにも気がついていない。
「…だから」
 くい、と。
 美奈子は天童の制服の裾を掴んで、引っ張った。顔は俯いたままで、ぽそ、と呟く。
「……二人きりの場所なら、わたしだって嫌じゃないよ」
 こうしてまた、彼女は天童の地雷を踏みつけて、爆発させたのだった。


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壁際に追い込む天童と追い込まれる1主が書きたかっただけの話。

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ゆるぼリク5 ルカとフェリチータ

ルカ離れしようとしてるお嬢……のはずが、デビトが出張りすぎワロス

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 パーチェとデビトがいつものバールで夕飯を摂っていたところへ、ふらりと幼馴染が一人で姿を現した。フェリチータの従者でもあり、実の両親よりも彼女に対して過保護な愛を注ぐ彼が一人というのは珍しい。そのことをデビトが突いてやるよりも、ルカが言う方が早かった。彼はデビトとパーチェが座る席に崩れ落ちるように座り込むと、頭を抱えて呻くように呟いた。
「…………最近、お嬢様の様子がおかしいんです」
 まるでこの世の終わりのような、そうして今にも飛び降り自殺をする寸前のような色々な感情が含まれたその一言に、デビトはおろかパーチェですら食事の手を止めた。さすがにこれはやばいと本能的に感じとって、デビトとパーチェは視線を合わせる。できることなら関わりたくないのだが、おそらくこの時点で逃げることは不可能だ。そんなことがわかってしまう程度には悲しいかな、付き合いが長い。そうして、彼の重度なフェリチータコンプレックスこそ今さら過ぎる問題だ。
「何がだよ」
 色々なものを諦めて、デビトがやや投げやりに訊いてやる。赤いワインが注がれたグラスを手にし、そのまま口元に運べば、がばり! と勢いよくルカが顔を上げた。
「聞いてください! お嬢様の様子が最近おかしいんです!」
「それはさっき聞いた。そうじゃなくて、具体的な内容言えつってんだ」
「そうそう、オレは別にお嬢はいつも通りだったと思うけど? 今日だって一緒に街の巡回いったし」
「そういや、昨日オレんとこに来た時も、別に変ったところはなかったな」
「それです!」
「あ?」
 びしり、とルカはデビトパーチェに向かって指を突き付ける。デビトは半眼、パーチェはきょとんとした表情になって、彼を見返した。そうして、同時に「どれ?」と尋ね返す。
「私は! もう一週間もお嬢様とまともに会話どころか目も合わせていないんです!」
「へえ」
 ルカの言葉に、デビトは素直に興味を示した。さっきまでの投げやりの態度から一転、椅子に座り直してルカに問う。
「なんだ、ついにバンビーナを押し倒したか」
「そんなことするわけないでしょう!」
「ッチ。なんだよ、つまんねえな」
「デビト、あんまりルカをからかっちゃだめだ」
「だってよ、他にバンビーナがルカちゃんを避ける理由なんて思いつかないだろーが」
「それはまあ……あ! お嬢のおやつをこっそりルカが食べちゃったとか?」
「そりゃおめーだけだ」
 げし、とパーチェの足を蹴り上げてやれば、痛い!
と非難の声が上がった。デビトは再び気だるげに椅子に座り直すと、バールのドアに付けられた鐘がカランと鳴り、来客を知らせた。何とはなしにそちらへと目を向けると、そこにはまさに話題の主であるフェリチータの姿が合った。けれどドアには背を向けた態勢であるルカは、彼女の存在には気が付いていない。対して、フェリチータの方はいつもの席に座っている彼らの姿を見つけた途端、すぐさま方向転換をした。入ったばかりの店から背を向けて、逃げだしたのだ。
「お嬢!」
「えっ、お嬢様!?」
 去っていく彼女の姿を見咎めて、パーチェが叫ぶ。その声にルカが反応して振り返るも、すでに彼女の姿はない。デビトは無理やりルカの頭を押さえつけると、パーチェに言う。
「パーチェ、ちょっとこのバカ捕まえとけ!」
「え? わ、わかった!」
「は、離してください!」
 頭で状況は把握していないが、本能的に何かを察したらしいパーチェが、言われた通りにルカを捕まえる。ルカはじたばともがくけれど、力勝負でパーチェに勝てるものはまずいない。そのことを確認しているデビトとは振り返らず、フェリチータの後を追う。店を出て、右か左か。所謂これもギャンブルの一つかと、少しだけテンションが高くなる。そうして右と決めたデビトは細い路地へと入っていった。薄暗い路地を掛け抜けて、つと、とある店の手前で足を止めた。フェデリカドレス。その店はすでに明りが消えていて、ドアの前には「CHIUSO」の文字が下がっていた。そうしてその店の前で、フェリチータの姿を見つけた。彼女の相棒であるフクロータが、唐突にぐるり首を回してこちらを見た。ばさり、とフクロータが羽を広げれば、フェリチータは振り返る。
「よう、バンビーナ」
「…デビト」
「ルカが心配してんぜ。お嬢様の様子がおかしい! てなァ」
 なるべく重くならないように、デビトは言う。そうして少しずつ彼女との距離を詰めて、けれど相手に圧迫感を与えない距離で止まる。彼女は一先ず逃げようとはせずに、顔を俯かせて口を開いた。
「わたしだっていつまでも子供じゃないんだし、それに、剣の幹部なんだから一人になることだってあるよ」
「それはそうだけどよ、ルカのあれは病気みたいなもんだってお嬢もわかてるだろ」
「でもそれじゃあ、わたしはいつまで経っても大人になれない」
 言うフェリチータの声は、ルカほどではないがそれなりに思いつめているのがわかる。その様子に興味を引かれ、デビトはさらに彼女へと問う。幸いなことに、今のフェリチータは他のことに気が回らないようだ。
「ルカがいたって、大人にはなれるだろうよ」
「ダメ。だって、ルカが隣にいるのが当たり前のままじゃあ、いなくなったときのことを考えたら、わたし」
「私はお嬢様の前からいなくなったりしませんよ!」
 と。
 唐突に割って入られた声に、このバカとデビトは口の中でぼやいた。
 しかしそんなデビトの思惑などお構いなしに、ルカは一目散にフェリチータの元へと駆け寄ると、彼女の手を取った。
「約束します。私は絶対、何があってもお嬢様の前からいなくなったりしません」
「そ、そんなこと言ったら、わたしは何もできないままになっちゃう!」
「じゃあ、一緒に覚えていきましょう。私が教えますから。だから、私をお傍に置いて下さい」
「……ルカ」
「……なあ、デビト」
「んだよ」
「これってさ、告白?」
「さあな?」
 少し離れたところで二人のやり取りを見学しながら、そんなことを二人はぼやく。正直、あと少しルカが我慢したならば、フェリチータから明確な気持ちが言葉になったのだろう。だが、対フェリチータにのみ我慢弱いルカにしては、これでも十分すぎる結末なのだろう。
「…メンドクーな、あいつらは」
「本当にな」
 珍しいパーチェの悪態に驚いて見返せば、言葉とは裏腹に目はひどく嬉しそうだ。
 デビトはため息を吐いて空を見上げた。とっぷりと夜は暮れ、星がきらめく夜空がまぶしい。
「あーあ、飲み直すかァ」
「四人で?」
「好きにしろよ」
「好きにする。おーい、ルカ! おっ嬢ー!!」
 ぶんぶんと呑気に手を振るパーチェの声に、ルカとフェリチータはようやく我に返ったらしい。

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\(ハッピーバースデー佐伯!)/

小話というより小ネタレベル。
ごめん佐伯。でも大好きだっていう気持ちはこもってるつもりですなのではやくデイジーと結婚しろ

改めて誕生日おめでとう、佐伯!!

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「お、お父さーん」
 一日の授業が終わり、バイト先である珊瑚礁に向かう道すがら。
 少し先に見知った後ろ姿を発見したあかりは、遠慮がちにその背中へと声を掛けた。そうすると、相手は歩みを止めてゆっくりと振り返る。学校では絶対に見せることのない半眼でもってあかりの姿を認めるや、今度は営業スマイルを浮かべて見せた。
「やあ、海野さん」
「う」
 いつもよりもワントーン高い声に、あかりは思わずたじろぐ。学校内やバイト先の珊瑚礁ならいざ知らず、今はあかりと佐伯の二人しかいない。というのに、この他人行儀の態度は彼の機嫌が悪いことを示している。あかりはもう一歩後退しそうなのを踏みとどまり、代わりに勇気を振り絞って彼へと近寄る。
 佐伯はあかりが来るのを待ち構えるように、その場から動かない。夏の暑さとは違う部類の汗が背中を伝い、あかりは視線を落として彼の元へと到着した。相手の靴のつま先を見つめながら、鞄と一緒に手にしていた紙袋を差し出した。そうして「誕生日おめでとうございます」と続ければ、頭に彼お得意のチョップがお見舞いされてしまった。
「遅い」
「…ごめんなさい」
「そんな親不孝な娘に育てた覚えはないぞ」
「だからって家庭内暴力はどうかと思うの」
「よし、もう一発だな」
「ごめんなさい」
 チョップの構えを取る佐伯にすかさず頭を下げて見せれば、今度はチョップではなく手のひらが頭の上に乗った。くしゃり、とその手があかりの髪の毛をかき混ぜ、すぐに離れていく。撫でられたのだと気づくのに数秒の時間を要してから、顔を上げた。すると、佐伯はいつものようにどこかめんどくさそうな表情でもって、いくぞとあかりに告げた。
「ちんたらしてたら遅刻する」
「う、うん」
「あー、あとな」
「なに?」
「じいさんがケーキ買うって言ってたから、ちょっと処分係りに加われ。そんで、カピバラになれ」
「ちょ、なんかその表現おかしい!」
「じゃあ食わない?」
「食べるけど!」
「ならいいだろ」
 そう言って、佐伯は笑う。その笑みにうっかり心臓が高鳴ってしまえば、彼は急にあかりの手を掴んできた。え、と思うのもつかの間、彼は急に走り出した。
「思ってたより遅れてる。急ぐぞ!」
「ま、まってちょっと瑛くん!」
 引っ張られてる態勢によろめくも、すぐに立ち直って彼の後ろをついていく。繋がれた手にどきどきと心臓が速くなる。
「瑛くん!」
 走りながら、あかりは彼を呼ぶ。相手は振り向かずになんだよと素っ気ない返事を返してきた。
「誕生日、おめでと!」
 そうあかりが言えば、繋がれた手にぎゅっと力が込められた。

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ゆるぼリク4 桜井兄弟とアイス

 ミーンミーンと蝉の鳴き声が騒がしい。
 日差しもきつく、太陽の光を照り付けるアスファルトからは日差しが反射して、目が痛いくらいだ。
「暑い」
「ウルセー」
 コンビニに到着した途端、琉夏の発した一言には兄の罵声が返された。琥一はさっさとバイクのエンジンを切ると、さっさとコンビニの店内へと入っていってしまう。琉夏もそれに続くようにバイクから降りて、兄の後を追う。いらっしゃいませーという間延びした店員の声を聞き流しながら、琉夏はまっすぐにアイスコーナーを目指す。対する琥一は、適当な雑誌を手にしてページを捲っていた。
 さすがに店内はエアコンが効いていて快適だ。WestBeachにある唯一の冷風材料である扇風機(拾いもの)が、先ほど寿命を全うしてしまったらしく、うんともすんとも言わなくなってしまったので、応急処置としてコンビニに非難してきたというわけである。今は天国だが、あと数分であの灼熱地獄のような場所に戻るのかと考えてると、若干どころか相当うんざりしてしまう。冬よりは夏の方が比較的好きだが、それにしても限度がある。琉夏は少しでも涼しさを継続させようと、ソーダ味のアイスを手に取った。それを持ったタイミングで、いらっしゃいませーという店員の声が上がる。琉夏はなんとはなしにそちらへと目線を向ければ、入口の所に立っている一人の少女と目が合った。
「琉夏くん」
「美奈子」
 まさかの幼馴染との再会に驚いていれば、それに気づいたらしい琥一も雑誌をおいてやってきた。
「二人とも、お買いもの?」
「ていうか、涼みにきた」
「ええっ?」
「扇風機、壊れちゃって。WestBeachにエアコンねえし」
「あ、あー…」
 言う琉夏の言葉に、美奈子は色々なことを察したらしい。彼女も数回遊びに来ているだけに、あそこの偏った設備は把握済みだ。冬なんて、室内なのに上着を着て過ごすこともある。
「大丈夫? 熱中症とかにならないでね?」
「だってさ、コウ。そういうわけだからエアコン買ってきて」
「バカ、買うわけねえだろ」
「じゃあ拾ってこいよ」
「テメエはもう暑さでイカれてんのか」
「二人ともっ!」
 こんな掛けあいは日常茶飯事ではあるが、さすがに狭いコンビニ店内では目立ってしまう。レジ横に立つ店員がちらちらとこちらに視線を送っているのに気がついて、琉夏は軽く肩を竦めて見せた。
「とりあえず、ここはやめとこう。平和的にアイスで解決だ」
「意味わかんねえ」
「美奈子、コウが奢ってくれるって」
「テメエは本当に人の話を聞かねえのかコラ」
「琉夏くんも琥一くんもストップ!」
 ぐい、と二人の間に割って入った美奈子が、下から見上げて目を吊り上げていた。ちょっとだけその勢いに面食らうと、琥一は舌うちをし、琉夏は降参とばかりに手を上げた。
「ケンカしないの。アイスならうちにあるから、良かったら寄ってく?」
「え? いくいく」
「おい、バカルカ」
「コウは行かねえの?」
「…んなこと言ってねえだろ」
「じゃあ、決まり」
 ね? と吊り上げていた目を笑みに変えて笑う幼馴染に勝てる術など、この兄弟には用意されていないのであった。

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ゆるぼリク3 冥加とかなで

冥加さんだけで精一杯でした・・・

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 いつもより二割、否、三割増しほど複雑な表情をした冥加の横顔を盗見みて、かなでは綿を詰められる前の状態の、くたっとしたうさぎのぬいぐるみの一つを手に取った。
 周囲は女友達同士、または恋人という組み合わせで賑あうこの場所は、オリジナルのぬいぐるみが作れるとういことで密かに話題なのだ。
 たまたま今日の星奏学園と天音学園の合同練習のあと、唐突に冥加から妹の誕生日プレゼントの相談(多分)を受けて、参考の一つにでもと一緒に同行したのだが、彼はこの店を目の当たりにしてからずっとこんな調子だ。
 かなでは今しがた手にしたぬいぐるみとは違う種類のぬいぐるみも持ち、冥加に訊く。
「これなんか、結構女の子には人気らしいですよ?」
「理解できん」
「そうですか? 確かに綿を詰める前はちょっとくたっとしてわかりづらいかもしれませんけど、これはこれでかわいいと思いますし、綿も自分の好きな柔らかさまで入れてくれるので愛着も湧くと思うんです」
「俺が理解できないのはそこじゃない。まあその思考も理解できんが」
「そんなこといってたら、プレゼントなんて決められないじゃないですか」
「……俺の代わりに貴様が決めろ」
「だめですよ。ちゃんと詩織ちゃんのことを考えてあげないと」
 そうかなでが言うと、なぜか冥加は舌打ちをした。そうしてさらに複雑になっていく表情に、今度はかなでの方が困ってしまう。両手に持ったぬいぐるみをそれぞれ元の場所に戻し、うーんと腕を組んで考える。かなでも今年の夏に横浜に来たばかりなのと、休日は殆どバイオリンの練習に費やしているので、実はそんなに流行について詳しいわけではない。この店だって、たまたま(さまざまな)情報に詳しい友人に教わったから知っただけなのだ。
 困った、とかなでが途方に暮れかけたそのとき、何とはなしに目を向けたぬいぐるみケースの中の一体と目が合った――気がした。ととと、とかなではそのぬいぐみに駆け寄ると、両手で抱きあげる。沢山ある種類のぬいぐるみの中で、それはスタンダードなテディベアだった。けれど、他のテディベアよりもちょっとだけ眼がつり上がっているように見える。確かに同じ種類でも表情はすべて違うというのがこの店の売りだが、それにしてもこの子だけは特に目元がきつく見えてしまい、そんなぬいぐるみをかなでは誰かに似ていると思った。
「おい」
 ふいに、背後から声を掛けられて、ぴんと背筋を伸ばす。
 そうして振り返ると、呆れた顔の冥加と目が合った。瞬間、「あ」と思わず声を上げてしまった。
「なんだ?」
「な、なんでも!」
「おかしなやつだな。……それ、気に入ったのか?」
「え、あ、はい」
「寄こせ」
「え?」
 突然の冥加の言葉を理解するよりはやく、彼の手がかなでからテディベアを奪い去ってしまった。そうして冥加の後を追うも、元々の身長差から彼の方がはやくレジに到着してしまう。こちらでよろしいですかとお決まりのセリフで問う店員に、ああと頷く冥加。プレゼント用のラッピングやリボンの見本を店員が取り出したところで、かなではようやく冥加の隣に追いついた。
「あの、待ってください」
「なんだ、違うのがいいのか?」
「そうじゃなくて、じ、自分で買いますから!」
「気にするな。付き合わせた礼だ」
「でも」
「リボンはこの赤で、ラッピングはこれで」
 言い淀むかなでには構わず、冥加はさっさと話を進めてしまう。隣でヤキモキしながら事の流れを見守ることしかできないでいると、ふいに冥加がこちらを見降ろしてきた。数秒目が合うものの、再びふいっと顔を正面に戻されてしまう。
 冥加さん? とかなでが口を開くより、店員の方が一歩はやかった。
 店員は慣れた様子で一枚の紙を提示すると、接客スマイルでこう言った。
「では、お名前をお決めください」
「は?」
 思わず、といった表現がぴったりと当てはまるような反応を、冥加は返した。しかし店員は臆することなく同じ言葉を繰り返す。
「あの、あとでプレゼントされた本人が名前を登録しに来ることは可能ですか?」
「ええ、大丈夫です」
「じゃあ、それでお願いします」
「両方ですか?」
 そう問われて、あっとかなでは呟く。かなではちらっと冥加を見上げ、次に他のぬいぐるみよりも目つきの鋭いテディベアを見やる。そうして、
「その子も、後日で」
「かしこまりました」
 店員は追及するまでもなく、そのまま会計を進めていく。隣に立つ冥加から視線を外しつつも、かなでの中ではしっかりと名前が決まっていた。

 そうして会計が終わった後、最後に綿を詰める作業が冥加に取って最大の難関なのであった。



「はい、ではこの子にココロを入れてあげるのでハートを選んで温めてください」
「ほら、冥加さん」
「……なんで俺がやるんだ」
「詩織ちゃんへのプレゼントですよ!」
「貴様がやれ」
「じゃあ、一緒にやりましょう」
「やらん」
「はい、じゃあハートは冥加さんが選んでください」
「……」

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