アンケリクでいただいた平小話でござる。初タイラー!
すごく…中学生日記です…笑
----------------
鈍くさいのか、タイミングが悪いのか、はたまたその両方か。
暫く考えて、残念ながら両方な可能性が高すぎる結論に至ってしまった平は、がっくりと肩を落とした。
さっきだってそうだ。楽しみにしていた修学旅行の出発前。たまたま見かけた美奈子と一緒に写真が撮りたかっただけなのに、何故か次から次へと人が集まって、最終的には集合写真になってしまった。今度は二人で、と言いかけた言葉はバスに乗り込む流れに飲み込まれた。自分の席から四つほど前に座っている美奈子の席を眺める。背の高い座席は彼女の横顔が辛うじて見えるほど。時折、通路を挟んで隣に座る男子生徒と楽しそうに笑う様子を眺めながら、平はほんの少しだけ眉を寄せた。どうして俺は、あんなに風に彼女と話せないんだろう。
「はー…」
一日目の日程が終了し、宿泊先のホテルで飲み物を買いに来た平は思わず、といった風にため息を吐く。自販機のボタンを押すと、がこんと音を起てて炭酸飲料が落下した。平はそれを屈んで取り出すと、その状態のままでもう一度ため息。鈍くさくてタイミングが悪いとか、どうなんだ俺と自問自答しつつ立ち上がる。そうして缶ジュースのプルタブに指を引っ掛けたところで、声を掛けられた。
「あ、平くん」
「え?」
間の抜けた声を発して、振り返る。そこには今し方思い返していた彼女が笑っていた。
「一人?」
「…うん、小波さんも?」
「わたしはこれからカレンとみよちゃんと、宿のおみやげ見に行くところ」
「ああ、なるほど」
やっぱり彼女が一人になることなんてないんだな、と。妙に納得しながら平も笑みを返す。けれど偶然とはいえ、こんな風に美奈子に声を掛けられるのはやっぱり嬉しい。平はプルタブに引っ掛けていた指を離して、ジュースを下げた。ほんの少しだけでも美奈子との会話に集中したい。そう思ってのことだったのだが、彼女の方はきょろきょろとせわしなく周囲を伺い始めてしまった。どうしたのだろうと思っていると、美奈子の黒目がちの目が平に向けられた。その目に自分が映るだけで、振動がどきどきする。中学生か俺はと内心で独りごちていると、美奈子はちょっとだけ言いよどむような仕草のあと、声をひそめた。手には、携帯電話が握りしめられている。
「その、今持ってるの携帯カメラだけなんだけど」
「え?」
「出発前、結局ちゃんと写真撮れなかったから」
「それって」
つまり、
「一緒に、撮ってもいいの?」
「た、平くんさえ良ければ」
嫌な理由なんてどこにあるのか。思わず言いかけて、いやいやと直前で踏みとどまる。その間にも美奈子は、ディスプレイが回るタイプの携帯電話のカメラを起動させた。よく女子が自分撮りをする光景を思い出す。そして、平は改めて周囲を伺った。いつもなら、ここで第三者の乱入がくるのだ。何してんだよタイラー俺も混ぜろよとかなんとかいって、悪意のないクラスメイトの姿がないか、確認する。弁解しておくが決して彼らが嫌いなわけではない。むしろ基本的には良いやつらばかりなのだが、今だけは。この数十秒の間だけは誰も来ないでくれと平は祈るように願った。そうして美奈子が携帯電話を構えるのに習って、平は少しだけ身体をかがめた。二人でくっついて撮る写メは、自然と距離が近くなる。ちょっとだけくっついた肩に触れる彼女の体温が、妙に恥ずかしい。
「…ありがと。赤外線で送るね」
「あ、うん」
「バンビー!」
「あ」
ちょうどシャッターが切られたタイミングで、カレンの声が飛んできた。思わず二人同時に振り返ると、大きく手を振るカレンとは対照的に物静かな雰囲気でこちらに向かってくるみよの姿があった。
美奈子は友人と平へと交互に視線を送り、困ったように眉根を寄せる。そんな姿すらかわいらしくて、平は彼女の背中を押すように口を開いた。
「俺のことはいいから、花椿さんと宇賀神さんのところにいってきなよ」
「ご、ごめんね」
「うん」
「あとで写メ送るから!」
そういって、美奈子はもう一度「ごめんね」と告げてから、小走りで二人の友人の元へと向かっていった。
再び一人きりになった平は、手の中ですっかりぬるくなったジュースのプルタブを開ける。一口飲んでみると、やっぱりぬるかった。しかし写メはもらい損ねたけれど、彼女と二人で写れた事実に顔がにやけてしょうがない。
案外、自分はお手軽なのかもしれないと考えながら、平はぬるい炭酸ジュースを一気に飲み干した。
[3回]
PR