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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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年下バンビ小話(続き)

昨日の小話を修正しました。

そしてうっかり続きの話。が、中途半端になところで私の妄想が終了のお知らせ。
ERO路線かピュア路線かで悩んだんだ…


だって告白もしてないしされてないのにAまで(古い)進んでるんだぜ…そうしたらもう色々飛び越えてしまうのが目に見えてるんだもの…



--------------------



「ごち」

 それだけを言って、あっさりと帰っていった幼馴染を思い出す。それはつい一週間前のことで、美奈子はこの一週間をそのことで悩まされていた。
 単純にいつものじゃれあいだけならば日常茶飯事だけれど、あの日は触れる程度とはいえキスをされてしまった。本当に唇同士が触れる程度、しかもあっという間の出来事だったけれど、感触だけは妙に鮮明に記憶されてしまっていた。そうして思い出すのと同時に顔に熱が集まり、ものすごい勢いで床を転がりたい気持ちになった。
 すでに放課後となった教室では、それぞれの生徒が帰り支度を整えている。すでに早々に帰宅したクラスメイトもいて、美奈子も鞄を背負って席を立った。受験生ともなればほぼ毎日自宅に帰る前に塾に行くコースが定着しているが、今日は週に一度のお休みの日だ。

(…ルカちゃん、いるかな)

 学校の下駄箱まで到着し、思う。隣に住んでいた幼馴染の兄弟は、高校進学と同時に揃って家を出てしまった。彼らの新しい住処であるWestBeachには、二回ほど訪れたことがある。一度目はそこに引っ越したばかりのとき。二度目は夏に花火をしにいったときだ。
 それ以降は二人のバイトが忙しいのも手伝って、向こうが美奈子家にくることはあっても自分が行くことはなかった。
 上履きから登校用の靴に履き替え、美奈子は校門を出て自宅とは反対方向にあるWestBeachに足を向けた。
 向かう前に携帯電話に連絡を入れれば、相手の不在を確認できるとわかってはいたが、あえてしなかった。
 いるかもしれない。
 いないかもしれない。
 半ば祈るような気持ちと一緒に、美奈子は夕暮れの始まった空を見上げた。




 到着したWestBeachの扉を押すと、鍵を掛け忘れたのかそもそも壊れているのか、どちらにせよ無用心な入り口はあっさりと開いて美奈子の侵入を受け入れた。

「お邪魔、しまーす」

 控えめに中へと声を掛けるも、しんと静まり返った沈黙が応えるだけだ。
 美奈子は頭だけ除きこむような状態から、一歩前進してWestBeachの室内へ踏み込んだ。おそらく掃除は殆どしていないであろう痕跡を確認しつつ、ゆっくりとした足取りで奥へと進んでいく。

「ルカちゃん、コウちゃん」

 さっきよりも声を大きくして、呼びかける。が、返事はない。
 これは本格的に留守かなと思いつつ、美奈子は錆びた会談に足を乗せた。ぎ、と軋む音に若干の不安を覚えつつも、一段一段を慎重に昇っていく。二階が琉夏、三階が琥一の部屋という間取りを思い出している間にあっさりと二階のステップに到着する。前回着たときよりも乱雑に散らかった様子に思わず顔を顰めると、もぞり、と前方で動く気配があった。美奈子が昇ってきた階段と負けず劣らずの不安定な軋みが響く。

「ルカちゃん…?」

 ベッドの上にいるであろう人影に声を掛けるも、応答はなし。美奈子は再び物音を起てないようにベッドへ近づいた。すると再び寝返りを打ったせいで、ベッドが悲鳴を上げる。
 しかしそんなことを気にするでもなく、ベッドの中の琉夏はぐっすりと眠っていた。半端に開いたカーテンから夕日が差し込み、彼の金色の髪をきらきらと反射させた。
 美奈子はひとまずベッドサイドに腰を下ろし、じっと眠る琉夏の顔を見つめた。昔からきれいな顔立ちをしていると思っていたけれど、最近はそれに拍車が掛かってきた気がする。子供の頃の中世的な雰囲気が、徐々に「男性」に変わっているからかもしれない。
 美奈子は眠る彼の表情を見つめながら、その目はどうしても彼の唇へ集中していた。
 一週間前。いつもより行き過ぎたじゃれあいの後、最後には掠めるような唇へのキスをされた。
 琉夏にとっては何でもないことでも、美奈子には爆弾を投げ込まれたような状態だ。
 おかげで最近の勉強は殆ど手付かず状態。来週には塾の定期試験も控えているのもあって、このままじゃだめだという気持ちが美奈子をここへ向かわせたのだが、いざここにやってきて、当の本人を目の前にしたらどうしていいのかわからない。
 あの日のことを問い詰めて「やり過ぎちゃった、てへ」などと言われた日には今より落ち込むのは目に見えていた。琉夏ならばいいかねないという予想を立てる反面、どうしてそこまで自分が落ち込むのかと考えて、顔を顰めた。

「…美奈子?」

 つと、寝ていたはずの琉夏の目が薄く開いていた。日本人にしては珍しい薄い色素の目が、ぼんやりと美奈子の姿を捉える。

「あ、お、はよう」
「…まだ寝る。おいで」
「え?」

 ふいにベッドの中入っていた手が伸びて、琉夏の腕を掴んだ。殆ど引きずられるようにして引っ張られると、ベッドが美奈子の代わりに不平をいうように悲鳴を上げた。しかし琉夏はその悲鳴には耳を貸さず、抱き枕状態にして美奈子を腕の中に抱え込む。布団の中はすっかり琉夏の体温で温まっている。

「あの、ルカちゃん」
「おやすみ…」
「ね、寝ないで! 起きて!」
「…あと5分」
「朝じゃないから! もうすぐ夜だから!」

 じたばたともがくものの、寝ぼけ状態の琉夏は器用にも美奈子を抱え込んだまま再び眠りにつこうとする。

「こ、コウちゃあん!」

 最後の助けとばかりに、美奈子は3階に住む長男に助けを求めて名前を呼んだ。しかし上の階に人がいる気配はなく、そもそも琥一がいるのならばさっきのじたばたと騒いでいる時点でお叱りの一喝が飛んできているはずだった。
 つまり、今この場所には琉夏と美奈子の二人きりだと自覚して、どきり、心臓が鳴る。

(お、落ち着いて落ち着いて。相手は寝ぼけてる上に殆ど寝てる状態なんだからなにもないない大丈夫大丈夫落ち着いて行動しよう落ち着いてわたし、落ち着いて!)

 と、実際殆ど落ち着けていない美奈子ではあったが、どうにか平静を装って脱出試みることに専念するのであった。

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