まだクリアーしていないけれd(ry
新のワンコ具合にきゅんきゅんしつつ、肝試しと花火大会のスチルがさ…もうさ…だめだった…何あの子将来有望過ぎる。あと色々オープンなところが好き。自分の気持ちを隠さず性的なところに持っていこうとする片鱗が伺えるのがいい。そういう自分に正直なところ大好きだ!笑
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ただいま、と言ってドアを開けると、おかえりという返事は返ってこなかった。元々住居人は極端に少ない寮だ。少し前まではこれが当たり前だったのだが、一時の夏の大会で沢山の人が寝泊まりしていただけに、この寂しさに戻るのはもう少し時間が掛かるだろう。そう考えて、かなでは思わず苦笑する。寂しいのは、何も人がいなくなったからではない。いつも真っ先におかえりと言ってくれる新の声が返ってこないのが、寂しいのだ。
すでに夏の全国大会は終わり、彼らがここに留まる理由はなくなった。各々がそれぞれの場所での日常があり、新も当然その一人だ。至誠館のメンバーと一緒に仙台へ帰って行ったのはついこの間。新幹線に乗るまで見送りに行くと、発車寸前まで彼はかなでの手を握ってくれていた。
「絶対絶対また会いにくるから、約束するから泣かないで」
そういう新の方が泣きそうな気がして、思わず吹き出してしまうと新は笑うところじゃないよとむくれた。けれど、そのすぐあとにかすめるようなキスをされてしまったので、軍配的には新の勝ちなのだけれど。
「…敵わないなあ」
去り際に、大好きだよと囁いた新の声と、表情を思い出す。一つ年下の彼は普段は無邪気に振る舞っているというのに、ふとした瞬間にひどく大人っぽい表情をみせるから困る。そのたびにかなでの心臓は大忙しだ。どきどきとうるさくなる心臓に振り回されてしまい、彼に悟られないように四苦八苦する。だが、大体は筒抜けらしく、緊張してる? なんて訊く彼は無邪気な笑顔だったりするのでそのギャップにまた追い詰められる。
「新くん」
無意識に彼の名前を呼んでみれば、まるでその返事とばかりに携帯電話が着信を知らせた。あまりのタイミングの良さに驚いて、携帯電話の入ったバックとヴァイオリンのケースを取り落としそうになった。
「せ、セーフ」
二つの荷物を抱え直し、かなではバッグの中から未だ鳴りっぱなしの携帯電話を取りだした。ら、そこには新の名前が表示されていて、思わず携帯も放り出しそうになる。
「も、もしもし」
まるで始めて携帯電話を持ったようなしどろもどろさで通話ボタンを押して、返事をする。と、向こうからはいつもの新の声が聞こえてきた。
『今平気?』
「うん、大丈夫だよ?」
『さっき帰ってきたところなんだけどさ、すっごくかなでちゃんの声が聞きたくなっちゃって』
そんなことをさらりと言われて、うっかり泣きそうになってしまう。
「…ありがと」
『会いたいなあ』
「すぐに会えるよ」
『今、会いたい』
「そんなこといっても、しょうがないよ」
そうかなでがいってみせれば、そうだけどちょっとだけ不機嫌な新の声が聞こえた。その声に、しまったとかなでは顔を顰める。素直にわたしも会いたいと言えば良かったのに、時折思い出したかのように頭を擡げる年上意識が邪魔をするのだ。我ながらかわいくないと自己嫌悪に陥るのと同時、彼に嫌われるのではないかと瞬時に不安になる。そんな風に考えるくらいなら、最初から素直になっておけばいいのにともう一人の声が聞こえてきて、ますますかなでを落ち込ませた。
『…ごめん』
つと、電話口から告げられた新の声に、はっと我に返る。かなでが何か言うより先に、新は言葉を続けた。
『こんな子供みたいなことばっかり言ってたら、かなでちゃんに嫌われちゃうよね』
そういう新に、かなでは心臓が止まった気がした。そう思われるのはこっちだと言いかけて、けれど言葉は音にはならずに喉もとでつかえた。今すぐにでも新の顔がみたいと願って、けれど横浜と仙台の距離の前では為す術もない。しょうがないと割り切ったふりをしていたのは、そのどうしようもない現実を受け止めたくなかったかなでの方だ。すぐに会える、なんて言葉は誰よりも自分自身を誤魔化すため。だってそうでも言っておかないと、新がいないことがさみしくてさみしくて仕方がないのだ。
「新くん…」
彼の名前を口にすれば、予想以上に情けない声が出た。ついで、言葉がつかえた喉がひきつる。
どうしよう、泣きそう。
けれどここでかなでが泣いたりしようものなら、優しい新に心配を掛けるのは明白だ。どうにか誤魔化さなければと考えて、けれど打開策が見つからないまま結局黙り込んでしまう。
『かなでちゃん』
つと、新の声が耳に届く。その声は十分過ぎるほどかなでの涙腺を刺激する。
『すぐに会いにいける距離じゃないけど、その分いっぱいメールする』
「…うん」
『電話もする』
「……うん」
『だからさ、オレのこと好きでいて?』
そう言う新に、三度目の頷きは殆ど声にならなかった。すでに視界は涙の膜に覆われていて、決壊するのを待ってるみたいだ。浅くなる呼吸を落ち着かせるように胸に手を当て、深く深呼吸。ほんの少しだけ落ち着いたような気がして、かなでは改めて電話の向こうにいる新へと意識を向けた。
『あ、あと』
「なに?」
『おかえり。言うの忘れてた』
不意打ちにもほどがある彼の優しさに、せっかくやり過ごしたはずの涙はあっさりと勢いを取り戻した。
結局泣き止むまで新に散々宥められるはめになるのだが、その一週間後にひょっこりと顔を出した彼にもう一度かなでは泣くことになる。
「あれ、なんで泣くの!?」
「だって…新くんがびっくりさせるから!」
「ええー! 喜ぶところじゃないのここ!」
「喜んでるよ!」
「泣いてるじゃん!」
「うれし泣き!」
「なんだ良かったー!」
「……二人とも、余所でやってください」
「あ、ハルちゃん、今晩泊めてね」
「帰れ!」
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