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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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琥一小話

ハッピーバースデー、コウちゃあああああああああん!!!!!!!!!
というわけで、ものすごく短いですが気持ちとしては全力で祝っています。本当に!生まれてきてくれてありがとうコウちゃん!SUKIDA!!
コウちゃんは琉夏とバンビにやかましく祝われたらいいと思います。そんでウルセーとか言いつつそっぽ向けばいいじゃない。本当はうれしかったりすればいいじゃない。そんなコウちゃんがいとしくしてたまらない。しかしこんなにも好きなのに書けないジレンマ。悔しい!

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 ぱたぱたと足音を起てながら、美奈子は校内を忙しなく走り廻っていた。
 こんなところを氷室になど見つかっては即刻「廊下は走らない!」と注意の言葉が飛んでくるのはわかっているのだが、それでも彼女は走らずにはいられなかった。というのも、今の時間は午前中の授業を終えたお昼休み。朝から休み時間の度に走り廻っているのだが、彼女の目的の人物――幼なじみの片割れである桜井琥一の姿が見つからないのだ。遅刻常習犯な琥一なので、午前中に姿が見えないことは多々あった。それでもひょっとしたらという気持ちに掛けて彼の教室を覗いてみたものの、本人はおろか、弟の姿もないのである。
 それでも休み時間毎に顔を出し、今現在が四回目のトライ中だ。
 お昼ご飯を食べることすら後回しにし、お昼休みに賑わう廊下を通り過ぎる。まず手始めに彼の教室へ行き、そのあとは屋上、購買にも立ち寄って空振り。残るは体育館の裏辺りかと考えて、美奈子は一度足を止めて息を吸い込む。五月も半ばに入いれば、季節は徐々に夏の気配を見せ始めていた。来月には衣替えが待っているけれど、半数以上の生徒が現時点でもブレザーを着ていられないほどの陽気である。美奈子自身も登校時には着ていたブレザーを自分の席に引っ掛けてシャツとベスト姿になっているが、それにしても今日はまた一段と暑い気がする。美奈子は手で顔を仰げば、暑さのせいか、なんだか目眩すら覚えてしまうほどだ。今からこんなに暑いと思ってしまっては本番の夏の到来時にはどうなってしまうのかと考えている矢先に、前方の数メートル先で他の生徒より頭一つ分高い見慣れた後姿を発見した。
 美奈子は殆ど脊髄反射で走り出し、「コウちゃん!」と相手の名前を呼んだ。相手はいつもの顰め面でもって振り返ってくれたが、その途端に何故かぐにゃりと世界が歪む。
(あれ?)
 と。
 歪む世界の中で、がくんと唐突に足場がなくなった気がした。続いて、急激に意識が遠のいていくのを感じる中で、なんだか琥一が慌てた様子で自分を呼んでいる気がしたのを最後に、ふっつりと美奈子の意識は途切れた。


(…あれ?)
 ふっと目が覚めたとき、美奈子は意識を手放したときと同じ言葉を思い浮かべた。薄く開いた目が最初に映したのは、ほんの少し薄汚れた白い天井だ。それから横に視線を動かせば、いつもの顰め面をより険しくさせた琥一と目が合った。
「……気が付いたか」
「コウちゃん?」
 相手の名前を呼んで起き上がろうとして、けれどそれは琥一に寄って塞がれた。両肩を押さえつけられてベッドに沈まされると、琥一が深いため息を吐く。
「オマエな、そんな熱があんのにフラフラ出歩いてんじゃねえよ」
「熱?」
 指摘された言葉をオウム返しのように言って、美奈子は数秒考えた。
 今朝からさっきまでの自身の行動を思い返し、そういえばと思い当たる。確かに朝起きたときは、ちょっとだるい気はしていた。あまつ五月にしては暑すぎる陽気だなとか思ってはいたけれど。
 そうか熱があったのかと今更のよう思い知って、けれどそれらが分かってはいても、間違いなく美奈子は今日、学校に来ていた。それこそ、這ってでも。
 だって、今日だけはどうしても休めない理由があった。
「コウちゃん」
「あ?」
「誕生日、おめでとう」
 そう美奈子が言うと、琥一は動きを止めた。顰め面をぽかんとした表情に変えてから数秒。それはたちまち怒りの感情へとバロメーターが振られていくのがわかる。何となく怒鳴られるのを覚悟して、美奈子はちょっとだけ身構えた。が、予想していた雷は落ちず、代わりに盛大なため息を吐かれてしまう。
「……オマエよ」
「なに?」
「ぶっ倒れてまで優先することじゃねえだろ」
「するよ。するに決まってるよ。だってコウちゃんの誕生日なんだもん」
「だからよ」
「大切な人が生まれた日を、祝っちゃだめなの?」
 琥一の言葉を遮るように言い募れば、再び彼は沈黙した。じっと琥一の目が美奈子を見据え、けれど彼女もまた、相手を真っ直ぐに見つめ返す。
 暫く無言で見つめ合っていれば、先に根負けしたのは琥一の方だった。
本日三度目のため息を吐いた彼は、大きな手で持って美奈子の目を覆い隠す。当然真っ暗になった視界には何も映さない。コウちゃん、と美奈子は見えない視界のままで相手の名前を呼んだ。
「いいから今は寝て、とっとと熱下げろ」
「ん」
「オマエの体調が回復したら、いくらでも祝われてやるから」
「うん。……コウちゃん」
「…なんだ」
「プレゼント、ちゃんと用意してあるんだ」
「そうか」
「ケーキも焼くから」
「あんまり甘くすんな」
 苦笑混じりに言う琥一の声を聞いて、うん、と答えた口元が、思わず笑ってしまえば「寝ろ」とお小言が降ってきた。美奈子は視界を覆い隠す手のひらの下、改めて瞼を閉じればより強く彼の体温を感じられる気がした。そうして、琥一が生まれてくれたから、こうして一緒に居られる。たまにケンカをすることもあるけれど、それもすべて彼がここにいるからこそだ。
 コウちゃん、と声には出さずに胸中で彼を呼ぶ。今日の目的を達成できたお陰か、今更のようにどっと眠気が襲ってきて。
 今度は自分の意志で、意識を手放したのだった。

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