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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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天宮小話(コルダ3)

ダークホース天宮。
初登場時はどうしようかと思ったけれど、後半の怒濤の展開に色々持っていかれました。悔しい。でも好き。

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 いつもの練習スタジオに向かう道すがら。前方で人待ちをしているであろう女性の姿を見つけて、天宮は思わず足を止めてしまった。彼の見知った少女かとよくよく観察してみれば、その女性が人違いなのがわかってほっと胸を撫で降ろす。が、すぐにその女性の元へ待ち合わせの相手であろう男性が駆け寄り、仲良さそうに寄り添っていく様を目の当たりにした途端、何故か心臓がずきりと痛んだ。天宮は思わず心臓に手を当ててみるも、しかし手のひらには変わらない鼓動が伝わり、先程の痛みも感じない。そうして少しだけ遠くなった二人の男女の後姿へと、もう一度視線を向ける。
(そういえば)
 と、初めて「彼女」と出会ったことを思い出した。勘違いで自分が予約していた部屋を彼女が使用していたのが始まりで、そのまま会話の流れで疑似恋愛の真似事をするということになった。そうして今日までその奇妙な関係が続いているのだが、あの時「恋をしているのか」という天宮の問い掛けに、「今している」と彼女は答えた。その時はなんてことは思わず、むしろ逆に恋を知らない自分には好都合だとさえ思えた。ただ己の音楽の向上と、知らないものを知りたいという純粋な興味なだけだったのに、今更になって彼女の恋の相手が気になってしまった。
 彼女は誰を想って、どんな恋をしているのか。
 そんな彼女ならば、天宮との関係は迷惑以外の何ものでもないだろう。
 嫌になったらやめてもいいよという自分の言葉を、決して忘れているわけではあるまい。
 けれど、あのお人好しの少女が自分から切り出すとも思えない。ならばここは天宮から言うべきなのだろうかと考えて、途端、今度は痛みではなくすっと胸の奥が冷えていくのを感じた。
 自分がさよならと告げたら、彼女はどんな顔をするのだろうか。
 わかったと素直に了承するだろうか、怒るだろうか、それとも――いやだと泣いてくれるだろうか。
 そこまで考えて、天宮ははっと我に返る。何を考えているんだろう僕は。こんな自分勝手なこと、それこそ彼女に迷惑だ。そう気持ちを切り替えようとした天宮は、頭を振っては空を仰ぐ見た。と、夏の日射しに目が眩む。
 その眩しさはまるで彼女が笑っている姿を彷彿とさせ、またもや心臓が痛んだ気がして。
 けれどその反面で、ひどく彼女の声が聞きたくなった。
 どうかしていると独りごちた天宮は、ため息を吐いて今度こそスタジオに向けて歩き出した。


 持て余している今の感情こそが、彼が求めて仕方ないものだと気が付くのはまだ少し先である。

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