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イチジ九

すべからくどうしようもない日常のあれこれ。 ネタバレ盛り沢山ですので注意!

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設楽小話

アンケリク、フロントホックな下着に戸惑うセイちゃん


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 好きになって、好きになってもらって、相思相愛になってそれなりの月日が経った。キスしてハグしてのやり取りにようやく照れることがなくなってきて、そうなると待ち構えているのは次のステップだ。好きな人の家に招かれて、二人きり。となれば、ちょっとどこかかなり期待してしまうのは男でも女でも一緒だろう。――多分。
 美奈子は出された紅茶に口をつけながら、けれど頭の中は違うことでいっぱいいっぱいだった。洋服はいつも以上に設楽好みのものを着てきたつもりだけれど、下着はそれ以上に気合いをいれてもいた。たまたまこの間カレンとショッピングにいく機会があって、購入していたセットの下着をおろしたのだ。派手すぎないフリルがついた、ラベンダーカラーのフロントホック。実は美奈子もフロントホックの下着を着けるのは初めてで、なんだかブラジャーを付け始めたばかりの中学生のような気分だった。
 そんなこんなであっちこもこっちもそわそわふわふわと落ち着かない気持ちでいたのだが、つと、そんな美奈子に対して設楽が一度も突っ込みをいれていないことに気が付いた。あれ、と思って紅茶のカップをそっと降ろし、隣に座る彼を伺いみた。ちら、とちょっとだけ見るつもりだけだったのに、ばっちりしっかり目が合って、思わず不自然に目を逸らしてしまう。どっどっどっ、といきなり心拍数が跳ね上がる。別にこの部屋には設楽と二人きりなわけだし、恋人同士なわけだし、彼が美奈子を見ていても何も問題はないんだけどもやっぱり。さっきから邪な思考で頭がいっぱいだから、その思考を見透かされてるんじゃないかと思うと大変心苦しい。だが、そこは設楽が好きだからそういう気持ちになるんだということを誤解されたくないなと思い当たり、もう一度彼を見た。ら、さっきよりも近い距離に設楽の顔があって、思わずのけぞってしまう。うわあだがうひゃあだが、我ながら間の抜けた声だなと冷静につっこみを入れつつも、のけぞった弾みで座っていたソファーに押し倒れる形になる。どさり。
「美奈子」
 うわ、と。今度は胸中で美奈子は呻いた。うわ、うわうわうわ。
 付き合うことになってからも、設楽のつっけんどんな言い方は相変わらずで、けれど美奈子はそんなとことも含めて彼を好きになったのでなんてことはないんだが、逆にこんな風に優しく低い声を出されるととても困ってしまう。
 だって普段とのギャップがありすぎる。だから困るとそこまで考えて、でも、とも思う。
 すごくすごく困るけど、でも――嬉しい。
 だってこんな設楽を見ることができるのは、自分だけだと知ってるから。知ってしまったから。
「聖司さん」
 堪らず、美奈子も設楽の名前を呼ぶ。そうすると、設楽の唇が降ってきた。額に、頬に、目尻に、鼻の頭に、唇に。沢山のキスの雨がくすぐったくて嬉しくて身をよじったら、大人しくしろと怒られた。
「……いいか?」
 キスの雨が一段落し、伺うような目と一緒に設楽問う。それに美奈子は目を細めて笑うと、いいですよと返した。シャツワンピのボタンが一つずつ外されていくのがわかって、美奈子はぎゅっと目を瞑る。いいとは言ったものの、これから相手にすべてを見られるのはやっぱり恥ずかしくて直視できない。閉じた視界の中で、ワンピースボタンが全て開けられて、インナーに着ていたキャミソールの裾に指が引っ掛かった。そうして、ちょっとだけ薄く目を開けてみた。ら、ひどく真剣な目をした設楽と視線がぶつかる。どきり。心臓が、大きく鳴った。
 ちょっとだけ、見るんじゃかったと後悔した。だってその目は、設楽がピアノを演奏するときの目と同じだったからだ。あの真剣な眼差しが自分に向けられていると自覚した途端、ぞくぞくぞくと背筋に言いしれぬ感覚が駆け抜けた。彼の手が、ウエストをなぞって背中に回る。指が肌の上を撫でるだけなのに、触れられた箇所から熱を持っていくみたいだ。
 こわいとかうれしいとか恥ずかしいとかの感情がごちゃ混ぜになって、美奈子は設楽へと手を伸ばす。彼はその手を首裏に回させてしがみつかせてくれた。設楽が美奈子の頬にキスをしてきて、両手が背中に回る。指先が探るような動きを見せて、止まった。そうしてもう一度同じような動きを繰り返すと、耳元でかすかに呻くような声が漏れる。
「…聖司、さん?」
 思わず、名前を呼ぶ。と、一度目は無視された。背中に回った腕がごそごそと動き回る手が、ちょっとずつ雑になっていくのがわかる。聖司さん、ともう一度呼びかければ、ちょっと黙ってろと言われてしまった。美奈子は言われるままに口を閉ざせば、設楽はまたもや美奈子の背中を探るように手を這わせる。その手の動きを追いかけながら、美奈子ははっとあることに気が付いた。あの、と控えめに声を掛けて設楽をみれば、さっきまでの甘い雰囲気はどこにいったのか、すっかり不機嫌な表情の目がそこにはあった。
「…大変申しにくんですが」
「なんだ」
「ブラジャーのホック、前です」
「は?」
「今日の下着、フロントホックなので、前で止めるタイプなんです」
 そういって、美奈子は自ら下着の前の部分を外して見せた。その現場を目の当たりにした設楽は数秒、沈黙。みるみる機嫌が降下していくがわかる。
「……せ、聖司さん?」
「おまえ」
「はい」
「もう下着つけてくるな」
「いくらなんでもそれは理不尽だと思います」
 ぷいと横を向き、機嫌悪く言い放つ設楽に真顔でつっこみを返す美奈子を誰が責められようか。
 結局そのあとに小一時間ほどの口喧嘩にまで発展してしまい、喧嘩の延長戦なのか仲直りなのかわからない初体験を迎えるのであった。

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